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文字数 1,043文字

すると、仏頂面の水妖族の青年と対面した。

「りゅ…リュウシン…」

 水妖族の青年はナズナの手首から手を離し、冷たく見下ろす。対面したのが元護衛役の青年だということで、ナズナはあからさまに安堵してみせる。ホムラでなくて本当によかった。
ほっと一息ついたところで、ナズナがもう一人の水妖族の青年の行方を尋ねる。

「そういえば、ジンフーはどこに?」

「知らん。はぐれた」

素っ気なく答えながら、リュウシンが歩き出す。倒れている男(おそらく兵士だろう)の身体を跨ぎ、辺りを警戒するよう見回した。今のところ増援が来る様子はない。
 そして彼女の側を飛ぶ神威の姿に気づく。前に見た時とは違い、色が変わっている。
リュウシンの視線の先に気づいたナズナが事情を説明した。ようやく彼はナズナが無意味にこの地に留まっている理由を理解する。
脱出する前に、彼女とリュウシン達が崇める神を縛る首輪を外さねば。
この首輪がある限り、故郷へ戻っても彼を召喚し、第二の儀式を執り行うことが出来ない。

「…とりあえず港へ向かうぞ。そのタツミという男を締め上げてでも首輪を外さねば」

「はい…」

先を歩く水妖族の青年の背中を頼もしく感じながら、ナズナも後に続いた。



 ナズナとリュウシンが港へ向かい始めた頃、件のタツミは港にて積み荷の検分に立ち会っていた。通常の検分作業なら部下達に任せて別の仕事をしているのだが、今回は王の婚礼に関わる大きな仕事だ。部下だけに任せて置けない。
あれから彼はあらゆる国を巡り、一流のものを取り寄せてきた。
 そのうちの一つである王とその花嫁の婚礼衣装に使われる煌びやかな反物を、一つ一つ丁寧に眺めていく。すると、別の作業をしていた部下が言伝にやってきた。

「タツミ殿!ソルーシュ=クリシュナと名乗る商人がお目通り願いたいと」

「ソルーシュ?」

聞き覚えのある名前にタツミの片眉が上がる。手に取った反物を下ろし、ソルーシュなる人物を思い出そうと考え込む。記憶の海を辿って、ようやく思い出した。

「ああ…あの小僧か」

懐かしそうに目を細め、タツミは立ち上がり部下に向き直る。

「会おう。連れてきてくれ」

 しばらくして、部下が二人の青年を連れて戻ってきた。一人は質のいい、質素ながらも上等な布を使用した衣服を纏った獣人族の青年。もう一人はタツミが初めて会った時の面影を残して成長した、褐色の肌をした人間の青年だ。部下を一旦下がらせ、タツミは二人の青年の前に立つ。

「久しぶりだな、小僧。ちょっと見ないうちに随分とでっかくなったじゃねぇか」
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