6-13

文字数 1,021文字

物思いに耽るナズナを呼び戻すかのように、ジェラルドが呼び掛ける。

「おい、何をぼんやりしている?ちゃんと前を見て歩かねばぶつかるぞ」

 彼の呼び掛けにナズナははっと意識を取り戻す。
改めて辺りを見渡してみると、いつの間にか廊下の雰囲気ががらりと変わっていた。
美しい装飾の施された廊下から殺風景な石造りの廊下へと変化している。おそらく、この廊下こそがナズナの記憶の欠片があると思われる宝物庫へ続いているのだろう。
頼りなさげな蝋燭の灯りがナズナ達が通る度に揺らめいている。ここは魔法の力で厳重に封印されているのか、見張りをしているミッターマイヤー家お抱えの私兵の姿が無い。人気が無いため、ナズナには少々不気味に感じた。
 先行くジェラルドの足が大きな扉の前で立ち止まり、兄から借りた鍵を鍵穴に差し込む。かちゃりと錠の外れる音がして、重々しく扉が開かれる。

「早く中へ」

ジェラルドに促され、慌てて中へ入り込むと彼は早々に扉を閉めて鍵を掛け直す。
 宝物庫の中は由緒正しいミッターマイヤー家の権威を象徴するかのように、あらゆる黄金や宝石が眠っていた。見たことのない武具や装飾品、貴重なものと思われる書物もある。
この中からナズナの記憶の欠片を探し出すことは少々骨が折れそうだ。しかし、先程よりはユーフェイの魔力の気配が強くなっているので、ここにあることは間違いなさそうである。
もう一度意識を集中すると、白銀で出来た女神像付近から欠片の気配を強く感じた。

「閣下、あの女神像から気配がします」

「よし、では探すぞ」

宝の山を掻き分け、ジェラルドとナズナは手分けして欠片を探す。予想に反して、欠片はすぐに見つかった。
ナズナの記憶の欠片は小奇麗に装飾された小さな化粧箱の中に入って所有者を待っていた。
欠片を化粧箱から取り出し、手の平に載せる。

「見つけました、閣下!」

嬉しそうに笑顔で駆け寄ってくるナズナにジェラルドもつられて笑みを浮かべた。

「よかったな」

「ありがとうございます!閣下に協力して頂いたおかげです!」

 無邪気に礼を言い、何気なしにナズナは欠片の載っていない方の手でジェラルドの手を握った。しばらくされるがままのジェラルドだったが、急に我に返って握られている手を勢いよく外す。微妙に恥ずかしくなってきたのか、顔が赤くなっていた。
それを隠すように少々乱暴な口調でジェラルドが言った。

「そ、そのままでは折角見つけたのに落としてしまうぞ。さっさと一つにまとめたらどうだ?」
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