6-3

文字数 1,028文字

それでもヴィルヘルムは落ち着かない。そんな彼を安心させようとナズナが言った。

「ヴィル、心配しないで。私は私なりにうまくやれるよう努力しますから」

 従妹の言葉にヴィルヘルムはじっと耳を傾ける。彼女や同僚を信頼していない訳ではない。ナズナは世間知らずで何でも信じてしまう。ジェラルドもこの純粋な従妹に対して紳士的に対応してくれるだろう。
 だが、ミッターマイヤー家の使用人達が何をしてくるか分からない。言葉巧みにナズナとジェラルドの婚約を成立させてしまうかもしれない。そんな懸念があるため、彼女と引き離される訳にはいかないのだ。ナズナは従兄である自分が守ってやらねば。

押し黙ってしまった幼馴染の騎士をソルーシュが窘めようとした。そして何気なしに壁に掛けてある時計を見てぎょっとする。
時計はビスマルク邸を出立する時刻を示していた。一旦切り上げ、ナズナとヴィルヘルムに外へ出るように急かしつける。慌ててビスマルク邸の門で待つミッターマイヤー家の馬車の元へ向かった。



「もうまもなく着きますよ」

 幼馴染の商人の言葉を聞いてナズナは馬車の小窓から外を眺めた。
夢の中で見たあの城がナズナ達を待ち構えていた。城の壁には由緒正しい家柄を示す深い青色の生地に銀糸で描かれた剣を抱く狼の紋章の旗が至るところに掛けられており、風になびいている。
また、ミッターマイヤー家お抱えの私兵達が青い鎧を身に包み警備に当たっていた。
 やがてナズナ達を乗せた馬車が城の出入口前に停まり、城の中からジェラルドが出迎えに現れる。彼の後ろには執事と数人の使用人達が付き従っていた。執事によって馬車の扉が開かれ、三人はジェラルド達の前に降り立つ。
ナズナがドレスの裾を摘まみ、代表として挨拶をした。

「ジェラルド閣下、この度は晩餐会にお招き頂きありがとうございます」

ナズナに倣ってヴィルヘルムが騎士の礼を取り、ソルーシュが深く頭を下げる。
ジェラルドはにこりともせず鷹揚に頷いた。

「よく来たな、ビスマルク嬢、ヴィル、ソルーシュ=クリシュナよ。
 大したもてなしは出来ぬが、精々ゆっくりしていくといい」

素っ気ないジェラルドに、彼をよく知るヴィルヘルムとソルーシュが顔を見合わせて苦笑した。お互いに挨拶を済ませるとジェラルドの後ろに控えていた執事達がナズナ達の外套を預かり、晩餐会の最後の仕上げに取り掛かるために姿を消す。
最後の仕上げが整うまで当主代行であり、ジェラルドの兄であるエミールの元へ挨拶に赴くことにした。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み