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文字数 1,022文字

 言われてみれば、とナズナがはっとする。
先程彼はナズナの貴族の礼と名前を聞いて向ける視線が鋭いものになった。
神威の言う通り、ソルーシュの過去に貴族関連で何かあったのかもしれない。

 そこで初めてナズナは気づく。
自分はこの幼馴染のことを何も知らないのだと。
彼が南大陸フェルドースの出身だということは知っているものの、そこでどう生きてきたのか、そして何故このノイシュテルン王国へやってきたのか、何一つ聞いたことがなかった。
 幼馴染の商人はいつも人のことばかりで、自分のことはあまり話さないし気にしない。
特にナズナに対しては過剰なまでに世話を焼き、そして気遣ってくれる。
今の時点では何がどうしてああなってしまったのか全く分からない。
 ナズナ様、とメルセデスに呼び掛けられて顔を上げる。
ぼんやりとしていたナズナを導くように、大地の精霊の娘はある方向を差し示した。

『二人が移動しましたわ。追いましょう』

幼い二人を追って行くと、孤児院の裏手に出た。
孤児院の裏手は少し開けた空き地になっており、孤児院のものと思われる畑がある。
ほんの少し歩けば、海岸へと繋がっていた。そこに幼いナズナがソルーシュの後をひよこのようについていく姿が見える。
そんな二人を夕陽が赤く染めていた。自分の後をしつこくついてくる幼い少女に嫌気が差してきたソルーシュは、一旦足を止めて荒々しく振り返る。

「オマエが一人であの丘を越えた先にある花を採ってきたら、遊んでやってもいいぜ。
 ま、世間知らずの甘ったれなお嬢様には無理だろうけどな!」

 いつか見た夢で聞いた言葉にナズナの肩がびくりと反応する。
あれは幼い彼がナズナを振り切るために言ったものだったのか。
そんなことを考えながらも、ナズナは夕陽に染まった彼の金の髪がとても美しいと思っていた。幼いナズナもきっと、同じように考えていたのかもしれない。
幼い彼女は深く考えることなく請け負った。

「分かった。今から行ってくる!」

恐れを知らない少女の言動にソルーシュが呆気に取られる。しかし、どうせはったりだろうと思いさらに焚き付けた。

「だったらさっさと行けよ。
 絶対に一人でやり切らねぇと認めないからな!」

ソルーシュの返事も聞かずに少女は丘に向かって駆けて行く。
 彼の言うあの丘を越えた先というのは、ポーラル=シュテルンの町の外。
つまり魔物や野生の動物等と遭遇する危険を孕んでいる。当然子供一人で行けるような場所ではない。しかももうすぐ夜が迫っている。
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