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文字数 1,073文字

勝ち誇るようにユーフェイが笑い、それにつられてジンフーもうっすらと微笑む。リュウシンだけが変わらぬ仏頂面で獣人族の貴公子達を睨んでいた。
 ナズナ本人からの明確な説明が無い以上、ジェラルドは納得しない。
彼は自身の勘が正しいと確信して槍を構える。どうも彼女は何かを隠しているように見える。
それは誰が見ても明らかだ。普段空気の読めないヴィルヘルムですら気づいている。
槍を構えた獣人族の貴公子に倣い、竜人族の少女も愛用の武器である両手剣を下段に構えた。
 神をも恐れぬ彼らに、ユーフェイは素直に感心する。
力量の差が分からぬほど、鈍くないはずだ。それほどまでに、この花嫁を取り戻したいのか。
一度完膚なまでに叩きのめした方がよいだろうとユーフェイが身構えたところで、リュウシンとジンフーが間に入った。

「ユーフェイ様のお手を煩わせるまでもありません」

「ここは我々にお任せを」

「…待って下さい!」

ナズナの制止に全員が固まり、そして彼女に注目する。一斉に全員の視線が突き刺さって一瞬躊躇ったものの、ナズナは言った。

「ちゃんと話します。だからどうか、武器を収めて下さい」

『我が花嫁…』

余計なことを言うなと言わんばかりにユーフェイが牽制するような視線を送る。
そんな彼を宥めるように、ナズナは彼にだけ聞こえる声音で囁いた。

「最期のお別れくらいはいいでしょう?」

 そう言われては何も返せない。渋々といった様子でユーフェイは元同族達に武器を収めるよう命令する。リュウシンとジンフーはすぐに従い、苦々しげにナズナを見た。
とりあえず集落の中へ入り、あまり人気のない場所に集まって彼女の話を聞くことに。

「…じゃあナズナ、話してくれる?」

ヴィルヘルムに促されて、ナズナがゆっくりと語り出す。
 今まで取り戻した記憶の内容、そしてユーフェイや滅びに向かっている水妖族の帝国のことを。
当然、ユーフェイと交わした約束についてだけは心の中に秘めておく。話せるはずがない。
黙ってナズナの話を聞いていたジェラルドが真っ先に口を開いた。

「…大体は理解した。逃れる時に水妖族の者をその手で殺めてしまった罪悪感から、お前はそいつの花嫁になり、水妖族の帝国のためにその身を捧げようとしていると」

「…はい」

ナズナが頷いた途端、ジェラルドとヴィルヘルムが盛大な溜息を吐いた。

「馬鹿なの?」

「えっ」

従兄の予想外な言葉にナズナが面食らう。それに同意するようにパウラが続ける。

「そもそも、元を辿れば水妖族の連中がナズナを攫わなければ起きなかったことでしょ。
 大体、余所の国の人を犠牲にして成り立つ繁栄ってどうなの?」
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