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文字数 1,059文字

少々名残惜しい気もするが、晩餐会の部屋へ戻った方が良さそうだ。何よりナズナの身体が冷え切ってしまう。

「…では、そろそろ戻るか。ヴィルヘルム達が心配しているだろうし」

「はい。あの…閣下!」

「…何だ?」

「お庭を見せて頂き、ありがとうございました!その…とても美しかったです!」

 興奮するナズナにつられて、ジェラルドの仏頂面が緩み、自然な笑みが零れた。ナズナは知らないが、彼が柔らかく笑うところなどなかなか見られない光景である。
よく分からない気持ちが湧きあがってくるのを持て余しながら、ジェラルドは令嬢の小さな手をそっと取った。

「どう致しまして、ナズナ」

 途端、晩餐会が開かれている部屋の方から何かが割れる音と悲鳴が聞こえてきた。ナズナは嫌な予感がし、ジェラルドが険しい表情で音のした方を睨み付ける。彼の耳で向こうで何が起きているのかを把握した。

「…侵入者だそうだ」

「…まさか…」

ナズナの考えを読み取ったジェラルドがさらに続ける。

「ああ。お前を探している」

「…!」

嫌な予感が当たってしまった。ナズナはドレスの裾を掴み、今にも駆け出さんと足を動かし始めるがジェラルドが押し止める。

「だめだ。お前はここにいろ」

「で、でも…!」

自分がここにいては、ミッターマイヤー家の者に被害が及ぶ。いくら名家に仕える私兵達でも、彼を止めることは難しいだろう。ノイシュテルン王国騎士団ですら止められなかったのだから。
どちらにしても、欠片が三つ集まったことにより、ユーフェイの魔力の気配が以前より強くなっている。リュウシンがナズナの元へ到達するのも時間の問題だろう。

 今、自分に何が出来るのか。何をしなければならないのか。
ナズナは必死に考えを巡らす。こんな時、従兄の騎士は、幼馴染の商人はどうするか。
ジェラルドが掛けてくれた上着を脱ぎ、ナズナは貴公子の方へと差し出す。彼女の目の色が変わったことに気付いたジェラルドが片眉を上げた。

「…正気か?」

ジェラルドが懸念しているのは、ナズナが行っても足手纏いになるかもしれないということだろう。確かにそうかもしれない。しかし、いずれ彼が自分の元へ向かってくるというのなら、遅かれ早かれ戦わねばならない。
だったらこちらから出向いて、ミッターマイヤー家の者達にこれ以上被害が及ばないように、人気のないところへ誘導するくらいは出来るはずだ。

 考えを改める気が無さそうなナズナにジェラルドは諦めたように溜息を吐く。
そして差し出された上着を片手でナズナの方へと押し戻した。ジェラルドの意図が読めず、ナズナは首を傾げる。
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