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文字数 1,030文字

 妖精と精霊の村ローグを出て南下し、三日くらいで例の浜辺に辿り着く。穏やかな波の音が心地良かった。
ノイシュテルンの北の暗い海の色とは違い、こちらの海の色はエメラルドグリーンでとても綺麗な色をしている。

 遠くの方にうっすらと島の影が見えた。あの島の影こそがホロウ島なのだろう。
それなりに距離があるように見えるが、リュウシン達がいるので多分大丈夫なはずである。
さっそく向かおうと、ナズナは心を鎮めて集中し始めた。
ユーフェイが寄り添う気配がし、やがてナズナの魔力と同調する。

『このくらいでいいだろう。後はこの状態を維持することに専念するのだ』

見た感じ、特にこれといって変わった感じはしない。
さっそくナズナは水際に近寄り、そっと足先を水に触れさせる。靴越しだからか普段と変わらない感触だったので、次は思い切って水の中へと進んで行く。

「す、すごい…!」

 思い切ったあまり太股辺りまで入ったが、水の冷たさは全くといっていいほど感じない。
そのまま足を進めてみても、水の抵抗を感じることなく地面を歩く時と同じような滑らかさで歩くことが出来た。
これなら潜ってみても大丈夫だろう。しかし念の為ナズナは深呼吸してから潜ってみた。

 するとどうだろう。
ポーラル=シュテルンの町の港から潜った時はあんなに息苦しかったのに、ユーフェイの力を借りた今は全然息苦しくない。
彼の力に感動し、そして感謝しながら海中を進んで行くと、水妖族の青年二人が後に続いてくる気配がした。
彼らはナズナの両脇に並び、それぞれ彼女の腕を取る。そして彼女の腕を掴んだまま、思い切り水を蹴った。彼らが水を蹴った瞬間、ナズナの周りの風景が加速する。
加速したことによって、微かではあるがようやく水の抵抗なるものを感じた。

  海中に届いていた光も、潜っているうちにだんだん届かなくなってきて辺りはまるで夜のように暗く、たくさんいた魚達の姿もいつの間にか消えていた。
美しい珊瑚の森も無くなり、隆起した岩谷が広がっている。荒涼とした風景が広がっていて、そして静かだ。暗さも相まって、不気味さを感じる。
ナズナを引っ張っていくことに集中しているのか、水妖族の二人は一言も発しないまま泳いでいる。

 ふと、ナズナの足に何かが掠めた。
一瞬のことだったので、気のせいだと思ったその刹那、ナズナの細腰に何かが巻き付き、そして引き寄せられる。
彼女の身体が引き寄せられたことにより、ナズナの両腕を掴んで泳いでいたリュウシンとジンフーの手が離された。
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