12-12

文字数 1,086文字

 最後まで抵抗したが、徒労だった。身体の主導権は強制的にナズナへと戻される。
しかしまだナズナ自身の意識が戻っていないため、結局されるがままだ。
無抵抗のナズナの身体を荷物のように肩に抱え、男は路地裏から表通りへと歩き出す。
 向かう先は王宮。高く売れそうな商品を手に入れられて、その足取りはとても軽かった。



 次にナズナが目を覚ました時は、赤い柱が何本も立ち並ぶ豪奢な建物内にいた。
黒曜石と御影石で出来た石床と石壁は、まるでワックスで磨いたかのように艶めいている。
柱と同じ色の紅い絨毯が敷かれ、武装した兵士や着飾った紳士淑女がナズナの方を見て何事かを囁いている。まるで見世物だ。
 よくよく見てみると、ナズナは竹で出来た檻に入れられていることに気付く。
その傍らには、路地裏でナズナを気絶させた男が立っている。
路地裏で対面した時には気づかなかったが、男の赤茶色の髪から黒い角が覗いている。ナズナの知るエリゴスの部下のような角とは少し形が違い、あちらが真っ直ぐなのに対してこちらは少々曲がっていた。
身なりは周りの紳士淑女とは違い質素な装いだが、男が放つオーラのおかげでそれを感じさせない。ここにいる誰よりも彼は堂々としていた。

「さあお集まりの紳士淑女の皆様!本日の目玉商品はこちらです!
 一見普通の人間の女ですが、何と中に四人の精霊を飼っています!!」

男の紹介にナズナの中にいる神威達が憤り、周りの紳士淑女から歓声が上がる。その歓声に負けないくらいの大声を張り上げて男は両手を上げた。

「まずは千ゴールドからです!」

 それを聞いてようやくナズナは自身が売り物にされていることに気付いた。
最初は多数が参加していたが、値段が吊り上っていくにつれて声が少なくなっていく。今の値段は新築の城が一つ建てそうなくらいの値段だ。
どんどん吊り上っていく値段に赤茶色の髪の男は満足そうに口を歪めていた。

「五千万ゴールド」

 涼やかな声が響き、その声が響いた途端水を打ったかのように静かになる。
今までの値段を圧倒的なまでに引き離された値段が提示され、全員が一斉にその声の主の方に注目した。
ナズナも目を凝らしてその人物の方を見る。奥まったところに玉座と思われる椅子が二つ並んでいる。左側の玉座には細身の男性が座っていたが、右側の玉座は空席である。
遠目から赤い髪の持ち主だということは分かったが、それ以上は分からない。
 これ以上値段が上がることはないと判断した男が手を叩き、高らかに宣言する。

「落札!こちらの商品は我らが王のものです。お買い上げありがとうございます、ホムラ様。
 ではでは、本日はこれにて閉会!」
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