7-11

文字数 1,029文字

感情が昂ぶっていたとはいえ、彼の両腕だけでなく、同族の命をも奪ってしまった。
信じられないことではあったが紛れもない真実。
ずっと知りたかった自分の空白の時間が、こんなに恐ろしいものだったとはとナズナは衝撃を受ける。目を逸らしたくなるものだったが、知りたいと自身で決めたのだから向き合わなくてはならない。

 それにこれはまだ序の口に過ぎないとナズナは直感的に悟っていた。
隣にユーフェイの気配を感じ、身体ごと彼の方へ向ける。
彼はナズナを気遣うような視線を投げかけてくる。何も言ってこないのは、おそらく彼にも掛ける言葉が見つからないからだろう。ナズナがユーフェイと同じような立場だったら、やはり掛ける言葉が見つからないはずだ。
ややあって、ユーフェイが話題を変えるように話し掛けた。

『…我が花嫁、汝の身体は今、先程の侵入者達によってこの大陸唯一の港町へと向かっている』

 自分があの時知りたいと強く思ってしまったばかりに、ジェラルドを始めとするミッターマイヤー家の者達に迷惑を掛けてしまった。それに従兄の騎士や幼馴染の商人達にも。
ジェラルドは無事だろうか、と彼の身を案じていると、すかさずユーフェイが教えてくれた。

『あのご令息は大丈夫だ。それよりも、我々自身のことを考えねばならぬ。
 汝が望めば、我が汝の身体を借りて戦うことも出来るが…』

「いえ、それは出来たら止めて下さい」

 ユーフェイの提案をナズナは即座に断った。
彼女はエリゴスとは違う、ユーフェイの圧倒的な力を恐れるようになっていた。特に、先程の記憶を取り戻してからは。
再びあの惨劇が思い出されたのか、ナズナは大きく身震いする。
ナズナがユーフェイをきちんと制御出来ればいいのだが、今は動揺等によって難しい。
そんな彼女を宥めるように、ユーフェイはそっと彼女の側に歩み寄って肩を抱いた。

『我を恐れることはない。この力は、汝を傷つけるものから守るための力だ』

だけど、言われるままに彼の力を借りて戦い、また感情が昂ぶって暴走してしまったら。
 あの時は母とエリゴスが幼い自分を止めてくれた。しかし今、誰が止めてくれるのだろう。
怯えるナズナの耳元にユーフェイが唇を近づけ、優しく囁く。

『我を恐れるな。汝は我が花嫁。汝を傷つけることはしない。あの約束を果たしてくれるまでは』

「やく…そく…?」

 新たな言葉にナズナは困惑する。
これも聞き覚えがあると言えばあるが、まだ思い出すことが出来ない。契約とはまた別に彼と何か約束したというのか。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み