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文字数 1,020文字

全てを言わなくても、ユーフェイには伝わっていた。彼女はまだ、ユーフェイから小さな主を解放させることを諦めていない。
後半の呟きはナズナの耳には届いておらず、大地の精霊の娘がまだ自分と共に在ることに喜び半分、申し訳なさ半分といった様子だった。

「い、いいのですか?メルセデス…折角ご家族の元に帰れたのに…」

『もちろんですわ!こうなったら最後までお供致します。
 それに…あの青年達とずっと一緒ではナズナ様も気が休まらないでしょうから』

 なかなかひどい言い草だが、確かにそうだとユーフェイは心の中でメルセデスに同意する。
花嫁にはメルセデスのような心休まる存在が必要だ。
そういった存在が自分であったらよかったのに、と水妖族の神は考えたが、すぐに振り払い自嘲気味に笑う。所詮ナズナは仮初めの花嫁で、自分の悲願を叶える道具でしかないと思わねばならないのに。

 三人のやり取りを見守っていたガイアが娘の前に立つ。
彼女の手の平には、先程ナズナの腕につけようとしたあの腕輪が載っていた。それを娘に差し出す。

『メルセデス、気を付けてな』

短い母の別れの言葉にメルセデスが力強く頷く。長い付き合いであるメルセデスには、母の気持ちが十分に伝わっていた。
差し出された腕輪を受け取りながら、メルセデスは笑顔を返す。

『ええ、行って参ります。お母様』



 ソルーシュの案内で、一行はレイジリアの街にある魔法学院を訪れていた。
ここにソルーシュの言う人探しの専門家がいるらしい。
魔法学院の敷地は一つの街と言ってもいい程の広いものだった。あまりの規模の大きさにジェラルドとヴィルヘルム、そしてパウラが驚きのあまり目を丸くしている。

「すごいな…。ノイシュテルンにも魔法学院はあるが、これ程では…」

「時間があれば是非とも見学したいところですが…それはまたの機会に。
 閣下、こちらです」

 ソルーシュに促されて、ジェラルド達は学院内へと足を踏み入れる。
ヴィルヘルムの個人的なイメージにより、学院内は静かなものと思っていたが、ノイシュテルン騎士団と同じくらいに賑やかな雰囲気だった。
やはり魔法学院だけあって、ノイシュテルンでは見かけない魔法の道具や生物があちらこちらで目に入り、心惹かれる。
この学院の生徒である証の制服を纏っている者達の他に、ソルーシュ達のような学院外の者も同じように歩いている姿が見えた。学院への入学希望者だったり、ソルーシュ達のように何かしら相談したい者だったりと目的は様々だ。
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