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文字数 1,043文字

透明な筒の上部からは何やら触手なようなものが何本も繋がっており、それは途中から壁に埋まっているようでどこへ繋がっているかは分からない。
 さらに奥へ進んで行くと、やはり透明な筒が何本も並ぶ部屋に通じていた。ただ、先程の部屋と違うのは透明な筒の中に人間や妖精、それに獣人族や竜人族が入れられていたことである。
異様な光景にその場にいた全員が息を呑んだ。

「い…一体ここは…」

恐怖で震えるナズナの肩をそっとユーフェイが抱く。さすがのジンフーも眉間に皺を寄せて苦々しい表情になっていた。

『…欠片はここにない。早く通り過ぎるぞ』

 ユーフェイに背を押され、ナズナは足早に次の部屋へ進もうとするが何かに躓いた。
その弾みで盛大に転んでしまったので身を起こし、躓いた原因が何かを眺めてみると、それは高く積み重ねられた本の山だった。
ジンフーが手に取り、首を傾げてナズナに読むよう促す。
場所が場所だけに読むのが何だか怖かったが、水妖族の青年が許してくれなさそうだったので渋々目を通して通訳してやる。

「…人工的に魔物が造れるかどうかの実験をまとめた記録のようです。
 その、主に人と魔物を融合させた魔物の…」

「それで、結果は?」

「…一応何体かは成功して、何かに実用させるとのことです。
 その何か、というのは残念ながら記録に残っていないようですけど…」

 実験の詳細に目を通し、あまりのおぞましさにナズナの顔が歪む。
これ以上読めないと言わんばかりに記録を元の位置に力なく戻した。
ふと何気なしに裏表紙が目に入り、そこの目立たない位置に誰かの名前が記してあることに気付く。

「“アリアドネ”…?」

 響きからして女性の名前のようである。どこかで聞いたことのあるような名前だ。
自身の記憶には関係ないが、それこそ家庭教師から聞いた知識の中に。しかし残念ながら聞いたことあるという感覚だけで、詳細は思い出せない。
 俯き、考え込むナズナを見てリュウシンは彼女が余程この光景にショックを受けているのだろうと思い至り、無言で次の部屋へ向かうことを示した。
それに便乗し、改めてユーフェイが彼女の小さな背中を押す。かなり力が籠っていたために、半ば押し出されるようにして次の部屋へと向かった。

 次の部屋は再び図書館のようにたくさんの本棚が並ぶ部屋だった。
ここが最後の部屋のようで、部屋の中央に金属で出来た四角い台があり、そこにフラスコや試験管、そして魔法使いが使用する鍋等の道具が置いてある。
先程の透明な筒が並ぶ部屋に比べれば幾分かましな部屋だ。
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