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文字数 1,032文字

「お、お願いですから二人とも落ち着いて下さい!」

『落ち着いていられるか!この者は汝と我を引き離そうとしているのだぞ?!』

噛みつかんばかりにユーフェイが怒鳴る。いきり立つ水妖族の神とは対照的に、大地の精霊の母と娘は冷静だった。だが、彼女が向ける視線は依然として冷ややかなままである。
 彼の言っていることは本当なのか、という疑問を込めてナズナがメルセデスを見上げた。
彼女の冷たい視線がナズナに向けることで普段の温かいものに変わる。それは声音も同様だった。

『…ええ。あの方の仰る通り、私はナズナ様とあの方を引き離そうとしていますわ』

「メルセデス…」

以前、ナズナは彼女に打ち明けた際、自身の命をユーフェイと水妖族に捧げると伝えたはずである。それが傷つけた者達への何よりの償いになるのだと。
主の物言いたげな視線を包み込むような温かさを込めて、メルセデスはその緑の瞳で強く見返した。

『ナズナ様、貴方のお気持ちもお察し致します』

ですが、と一旦強く言葉を切って大地の精霊の娘は主の細い両肩を掴む。

『私はそうは思いませんわ。貴方の命を捧げることが償いになるなんて…もっと違う方法があるはずです。
 それに私は…貴方に生きていて欲しい』

「…だけど、私は…」

 紅の瞳を揺らし、唇を震わせてナズナは彼女の視線から逃れるように俯こうとする。逃がさないと言わんばかりにメルセデスが主の両頬を自身の白い両手で包み、強制的に目を合わさせた。

『ナズナ様、私は貴方を助けたいのです。私だけではありませんわ。あの魔界の王、エリゴス殿も、神威さんや貴方の幼馴染の方々も。
 今はご存知ないでしょうけど、事情を知れば、必ずやそう思うはずですわ』

「……」

 沈黙を貫いているものの、主の瞳は正直だ。ナズナの心に迷いが生じている。
もう一押し、と言ったところで水妖族の神がメルセデスからナズナを奪った。

『黙って聞いておれば勝手なことを…!我が花嫁はすでに決めたのだ。そのような戯言で惑わそうとするでない!』

花嫁の目と耳を塞ぐように、ユーフェイはナズナの身体を背後から強く抱きしめた。

『それに、我を花嫁から引き離そうとしても無駄だ。汝らでは過去の皇帝が我に掛けた呪いに打ち勝つことは出来ぬ!』

どこか投げやりな水妖族の神の言葉にメルセデスが眉を吊り上げる。

『やってみなければ分かりませんわ!』

そう反論して、大地の精霊の娘は先程の腕輪の方を見た。
そこでユーフェイとナズナは、あの腕輪をはめると何が起こるのかを何となく察した。
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