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文字数 1,018文字

「さりげなく助けて下さるところ…でしょうか」

ナズナの答えを聞いたジンフーが、意味深な笑みを浮かべて元同僚の方をちらりと見る。当の本人は鼻を鳴らし、前を見据えて聞こえないふりをしていた。
そんな彼を見て、ストラは納得しかねるように唸っている。どう見ても紳士的とは言えない。
 彼の斜め後ろを歩くジンフーの方が、よっぽど優しそうで紳士的に見える。…内に秘めているものはとんでもなくドス黒そうではあるが。
紳士的と言えば、ここにはいない幼馴染の青年や従兄のことを思い出す。
今頃彼らは何をしているだろう。きちんとしたお別れをしなかったことが悔やまれる。
 遠い目をして考え込むナズナを、ストラが半目でじっと見ていた。何か言おうと口を開きかけたが、それよりもリュウシンの呼び掛けが先に遮る。

「おい、これ以上は先に進めないぞ」

 草原の終わりは切り立った崖で、崖の向こうは東大陸へと続く大海原が広がっていた。確かに普通ならこの先は進めない。そして獣人族の集落らしきものも見えない。
 だが、微かに漏れ出ている魔力から、目くらましの魔法を用いた結界が張られていることが分かる。
魔法に精通した者にしか分からないくらいの魔力なので、魔力を持たない者には絶対分からない上、巧妙な仕掛けを施した魔法だ。
結界と言っても、全てを拒むような強力なものではなく、あくまで魔物に対して発揮されるもののようだ。
ストラがリュウシンの頭上に降り立ち、両翼を広げて告げる。

『この崖の向こうが獣人族の集落っスよ。お疲れ様でした~』

ストラの言う崖の向こうはやはり青い海が広がっている。
視覚的には崖から足を踏み外すようで少々躊躇った。さすがにリュウシンもごくりと喉を鳴らして踏み出せずにいる。そんな彼をストラが煽った。

『へいへいビビってる~』

 器用に手を叩くように両翼を使い、煽ってくる魔界の政務補佐官にいらつく。リュウシンは自身の頭の上にとまっている魔界のカラスを払うかのように手を勢いよく振った。
そして意を決して、崖の向こう側へと足を踏み出す。
 するとまるで水の中へ入ったかのように崖の向こう側の景色に波紋が広がる。
リュウシンの身体は景色の向こう側へと吸い込まれていった。
驚いたジンフーとナズナが思わず顔を見合わす。一向に進もうとしない二人の後を押すように、ストラがカラスの姿から人の姿へと変わり、ジンフーの背を両手で勢いよく押した。

『はいはい、後ろが詰まっているのでさっさと行くっスよ!』
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