7-15

文字数 1,080文字

「どうでしたか、リュウシン?」

穏やかに話すジンフーとは対照的にリュウシンは不機嫌そうに答える。

「思ったより早く港が封鎖され、騎士団の者達が配置されている。
 ワタシ達だけならばここからでも行けるが、コイツを…否、シェンジャ殿を連れて行くとなると、やはり船が必要になるだろう」

「で、使えそうな船は?」

「小舟ならばあったが…長旅するには心許なさそうだ」

リュウシンの報告を聞いてジンフーはふむ、と顎に手を当てて考えを練り始めた。
 騎士団がすでに到着しているということで少し希望が見えてきたような気がする。
どうにかしてジンフーに盗られたカードと短剣を奪い返したいところだが、両手を縛られている上に未だドレスのままである。両足が自由でも、この格好で素早く動けるかと問われると難しいところだろう。

『我が花嫁よ』

ユーフェイが直接ナズナの脳内に話し掛けてきた。どう答えようか悩んでいるうちに、彼はそのまま続ける。

『俺の力を恐れる気持ちは痛いほどに分かる。だがここはやはり俺の力を使った方がよいのでは…』

しかし、ナズナが拘束されている両手首にはユーフェイ封じの札が貼ってある。彼を召喚するにしても、この札を剥がさなくてはならない。
 ナズナが悩んでいるうちに、彼女の身体がふわりと浮いた。どうやらリュウシンがナズナの身体を横抱きにして持ち上げたようだ。

「ど、どちらへ行かれるのですか…?」

「うるさい。黙っていろ」

ナズナの質問をすっぱりと斬り捨て、リュウシンはナズナを抱えたまま移動を開始した。ジンフーが彼らの後に足音なくついてくる。歩きながらジンフーもマントを被り、そしてナズナにもマントを被せた。
 視界がぐっと狭くなり、ナズナ自身今どこを歩いているのか分からない。しかし耳は聞こえているので、じっと耳を澄ませた。ざわざわと人々の声が聞こえてくるに、どうやら港町ポーラル=シュテルンの中へと入り込んだようだ。町の人々の話題は騎士団の者が港を封鎖していることについて持ちきりである。
裏通りは通らず、あえて人の多い表通りを歩いているようだ。人が多いためか、騎士団の者達も町の人々もリュウシン達に気を留めることはない。
しかしもうすぐ港に着くというところでついに声が掛かった。

「おい、待てお前ら。今港は封鎖中だ。何の用でどこへ行くつもりだ?」

明らかに不審がっている。しかし声だけでは声を掛けた人物がこの町の者なのか、それとも騎士団の者なのか判別がつかない。
口下手なリュウシンは沈黙を貫き、ジンフーが悲しそうに答えた。

「弟の恋人が急病で…急いで一番速い船に乗ってエドニス大陸へ向かわないと…」
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