5-6

文字数 1,020文字

「い…一体どうしたのですか…?」

ナズナの小さな問い掛けに彼女の中から神威が簡潔に答えた。

『彼です』

「彼…?」

 一瞬ナズナは神威の言う彼が誰なのかを考え、そしてユーフェイかと思った。
確かに彼は外に出て来れるようになったが、基本的にはナズナの中にいるため出てくるとしても必ず彼女の傍にいるはずだ。そこまで考えて自身に向けられる殺気を感じ、ナズナはその殺気の正体を思い出した。

 舞踏会にて襲撃してきた青年、リュウシンを。

相変わらず隠そうともしない憎悪の視線を肌で感じてナズナは縋るように短剣の柄を握り締める。それを合図に物陰からリュウシンが勢いよく飛び出してきた。
長い袖をなびかせ、彼はただ真っ直ぐにナズナを狙ってくる。あの時と同じように。
 戦う術を知らなかったあの時はどうにも出来なかったが、今は違う。拙いながらも、彼女は抗う術を学んだ。
黒い機械の腕を伸ばして捕らえようとするリュウシンをナズナは短剣の刃の部分で迎え撃った。ガキィンと金属の音が響き、火花が散る。ナズナがリュウシンの進撃を止めた絶好の機会にヴィルヘルムとソルーシュが動いた。

「このオレがいる限り、ナズナ姫を連れて行かせねぇぜ!」

 ソルーシュの軽口にリュウシンは無言で眉を顰め、身体を捻って彼の攻撃を左腕でいなした。その隙を突いて今度はヴィルヘルムが飛び掛かる。
ヴィルヘルムの気配をあらかじめ察していたリュウシンは彼の攻撃を受け止めることなく、一旦ナズナから距離を取った。
普通に考えれば三対一は分が悪すぎる。
それでもリュウシンは臆することなく腕を三人に突き出し、ガコンと銃口を出して間髪入れずに発砲した。

「ナズナ姫、掴まって下さい!」

リュウシンが放った銃弾は広範囲に渡って飛んできた。どう避けるか考えて動けなかったナズナのフォローにソルーシュが回る。
素早くナズナの腰を抱き寄せ、その場から飛び退いた。銃弾の雨を避けたナズナ達にリュウシンの眉間の皺が深くなる。同時に忌々しそうな舌打ちが響いた。

「ちっ…ちょこまかと…!」

 ソルーシュはリュウシンのナズナに対する行動について思い返してみた。
ナズナをリュウシンの故郷である水妖族の帝国に連れて行くに当たって、彼女を生きたまま連れて行くことが大前提のようだ。しかし、生きてさえいればいいという感じで、多少傷つけても問題ないという様子である。
今は傷つけないように戦ってはいるが、何かのきっかけで方針が変わる可能性がある。長引かせては危険だ。
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