8-15
文字数 1,042文字
彼を神という役割から解放し、そして水妖族の国を元の美しい姿へ戻すために。
それが自分に出来る償いではないだろうか。
主が出した答えにメルセデスが絶句する。
契約主がそう決めたのならば、契約者は従わねばならない。しかしメルセデス個人としてはそれに従いたくない。
何としても彼女を助けてやりたいという気持ちが強かった。きっとナズナは戻った記憶のせいで混乱しているのだろう。自責の念に囚われてこんな結論を出してしまった。
今のところナズナは考えを変えるつもりはなさそうだ。ならばメルセデスが勝手に動くしかない。
メルセデスはそっと主の手を取った。
『ナズナ様のお気持ち、よく分かりましたわ』
「メルセデス…」
不安そうに見上げてくるナズナにメルセデスは強い決意を秘めた表情で頷き返す。
『私はナズナ様のために、最善を尽くします』
メルセデスの言葉の意味が分からずにナズナは一瞬首を傾げた。
しかしメルセデスが彼女の中へ還っていったところを見て、大地の精霊の娘はこれまで通りナズナと一緒にいてくれるようだ。それがとても嬉しく、安堵する。
「…ありがとう、メルセデス…」
ぽつりと呟き、ナズナは食事を再開した。
*
ソルーシュは苛々と足で船の床を踏み鳴らしていた。落ち着きのない幼馴染にヴィルヘルムが苦々しく咎める。
「そんなことしても、船の速度は上がらないよ」
「…分かってるよ」
足を踏み鳴らすのを止め、ソルーシュは空を仰いだ。
苛立つソルーシュの気持ちはヴィルヘルムにもよく分かる。
しかしこのように苛立つ幼馴染を見るのは初めてだった。今まで宥めるのはソルーシュの役割だった。珍しいものを見るかのように、ジェラルドもソルーシュの方を見ている。
そんな彼にヴィルヘルムが話し掛けた。
「ジェラルド、よかったのかい?」
「…何がだ?」
同僚の質問の意味が分からず、苛立つソルーシュから目を離さぬまま獣人族の貴公子が聞き返す。
質問を質問で返してきたジェラルドにヴィルヘルムが苦笑する。
「騎士団の教官役をせずに、僕達についてきていいのかってこと」
ぴくり、とジェラルドの耳と尻尾が反応し、仏頂面のまま答えた。
「上官に許可は頂いている。父からもだ。
それより何より、私の意志でここにいる」
「…そう」
真面目な彼のことだ。ナズナが目の前で攫われてしまったことに責任を感じて自ら志願したのだろう。ジェラルドが気にする必要ないのに、とヴィルヘルムは思う。
むしろ責めるべきは彼女から目を離した自分自身だとヴィルヘルムも、そしてソルーシュも思っている。
それが自分に出来る償いではないだろうか。
主が出した答えにメルセデスが絶句する。
契約主がそう決めたのならば、契約者は従わねばならない。しかしメルセデス個人としてはそれに従いたくない。
何としても彼女を助けてやりたいという気持ちが強かった。きっとナズナは戻った記憶のせいで混乱しているのだろう。自責の念に囚われてこんな結論を出してしまった。
今のところナズナは考えを変えるつもりはなさそうだ。ならばメルセデスが勝手に動くしかない。
メルセデスはそっと主の手を取った。
『ナズナ様のお気持ち、よく分かりましたわ』
「メルセデス…」
不安そうに見上げてくるナズナにメルセデスは強い決意を秘めた表情で頷き返す。
『私はナズナ様のために、最善を尽くします』
メルセデスの言葉の意味が分からずにナズナは一瞬首を傾げた。
しかしメルセデスが彼女の中へ還っていったところを見て、大地の精霊の娘はこれまで通りナズナと一緒にいてくれるようだ。それがとても嬉しく、安堵する。
「…ありがとう、メルセデス…」
ぽつりと呟き、ナズナは食事を再開した。
*
ソルーシュは苛々と足で船の床を踏み鳴らしていた。落ち着きのない幼馴染にヴィルヘルムが苦々しく咎める。
「そんなことしても、船の速度は上がらないよ」
「…分かってるよ」
足を踏み鳴らすのを止め、ソルーシュは空を仰いだ。
苛立つソルーシュの気持ちはヴィルヘルムにもよく分かる。
しかしこのように苛立つ幼馴染を見るのは初めてだった。今まで宥めるのはソルーシュの役割だった。珍しいものを見るかのように、ジェラルドもソルーシュの方を見ている。
そんな彼にヴィルヘルムが話し掛けた。
「ジェラルド、よかったのかい?」
「…何がだ?」
同僚の質問の意味が分からず、苛立つソルーシュから目を離さぬまま獣人族の貴公子が聞き返す。
質問を質問で返してきたジェラルドにヴィルヘルムが苦笑する。
「騎士団の教官役をせずに、僕達についてきていいのかってこと」
ぴくり、とジェラルドの耳と尻尾が反応し、仏頂面のまま答えた。
「上官に許可は頂いている。父からもだ。
それより何より、私の意志でここにいる」
「…そう」
真面目な彼のことだ。ナズナが目の前で攫われてしまったことに責任を感じて自ら志願したのだろう。ジェラルドが気にする必要ないのに、とヴィルヘルムは思う。
むしろ責めるべきは彼女から目を離した自分自身だとヴィルヘルムも、そしてソルーシュも思っている。