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文字数 1,073文字

神威の問いに一瞬きょとんと目を丸くするも、王の家臣は平淡な声で名乗る。

「これは申し遅れました。我が名はアカツキ。しがない武士です」

 武士とは、ナズナ達の国で言う騎士に当たる役職である。神威はこの東大陸出身ではあるが、育ちは中央大陸のため聞き慣れない言葉に内心首を傾げた。

『は、はあ…』

「それで貴殿と…この王の妃となる方のお名前は?」

『私は神威。こちらの少女はナズナと申します』

 王に使える家臣(それもかなり上の身分と思われる)が王の妃となる者の名前すら知らないことに神威は驚いていた。てっきり、婚礼の準備等もあるので国中の者達が知っているのかと思っていたのだ。
神威の心中を察したのか、アカツキが申し訳なさそうに両肩を竦める。

「失礼。王が妃を娶るという話は以前から伺っているものの、こうして御姿を拝見したりするのは初めてでして。
 まさか、あの時の少女だったとは…」

彼の言うあの時とは、ナズナが竜人族の王に買われた時のことだろう。逃げ出すことに必死だったため、ナズナや神威達は全く覚えていないのだが。
改めて抱えている少女を観察しながら、アカツキは王の私室へと向かい始める。

「何ていうか…その辺にいそうな…ふつ…いや、素朴な感じのする少女ですな」

武士の濁した言葉に神威が内心突っ込んだ。
 つい先程までに水妖族の神と竜人族の王が対峙し、そしてその神が彼女の身体の中へ還って行ったというのに。彼のよく知る魔界の王や大地の精霊の娘、はたまた主だった少女の幼馴染の商人の青年なら全力で突っ込んでくれたに違いない。

 なお、アカツキとしてはただナズナの容姿についての感想を述べただけに過ぎない。
てっきり王のことだから傾国の美女レベルの容姿で、それなりの身分の者を伴侶に迎えるとばかり思っていた。

 容姿は普通、種族はほぼ人間寄り、魔力は常人より強い。ただ彼女の中にいる者がこの国に相対する者だ。そんな危険因子を宿している少女を、王の妃に迎えていいのだろうか。

 何せ彼を始めとする家臣達は王より近いうちに妃を娶るという通達を受けただけで、妃となる者の容姿や素性等今まで一切明かされなかった。
王の命令とはいえ、突然の婚礼などに意を唱える者が多数いたが、王の熱意と説得(という名の脅し)に押し切られていた。
実際にこの少女と話をした訳ではないが、彼女に仕えているこの白い鳥が心配そうにしているということは慕われているのだろう。一度面と向かって話してみたいところだが、王は許してくれるだろうか。
 このコウヅキ国を愛し、王に長年仕える者として彼女を見定めたいとアカツキは思った。
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