9-15

文字数 1,016文字

自身の身体能力を魔法で強化し、水妖族の神をどうやって大人しくさせるか考えを巡らす。

 一番いいのは、メルセデスとユーフェイの契約主であるナズナがここに来ることだ。それに上司である魔界の王が一緒だと尚良い。
そうなればこの不毛な戦いは一瞬で片が着く。
しかしあの小さな主は余程深く眠っているのか、あるいはユーフェイがここへ入って来られないように仕向けているせいなのか、彼女の気配すらも感じ取れない。
ストラの上司である魔界の王も溜めていた公務に追われていた。ストラの本音としては書類決裁日が近いため、もし来てくれるならそれらを終わらせて来て欲しい。

 両翼を広げ、ストラは宙へ舞い上がった。
先程身体能力を強化したおかげで、宙へ舞い上がる速度も上がっている。空は彼の領域なので、流石のユーフェイも迂闊に手が出せないはずだ。

空中から魔法を放って彼を拘束した後、メルセデスを安全なところへ送り届ける。

 そう頭の中で計画を立てたところでストラは連続魔法の詠唱に入ろうとしたが…。

『逃げても無駄だ』

ユーフェイの声が明瞭に響き、ストラの胸の辺りで鈍い音がした。
次に痛みが襲い掛かってくる。長い年月感じたことのなかった久しぶりの痛みにストラは目を丸くする。

 水妖族の神はあの場から一歩も動いていないのに、何故。
胸の辺りを見てみると、彼の胸は氷の刃に貫かれていた。その氷の刃を中心に、ストラの身体をどんどん氷が覆っていく。冷気のためか、集中力が薄れつつあるため高度もだんだん下がっていった。
抱えているメルセデスをどうするか悩んで、ストラは最後の力を振り絞って転移魔法の詠唱に移行する。
そうはさせじとユーフェイが水の刃をストラに向かって放った。
すでにストラの身体を覆う氷は翼にまで及んでいる。水の刃が届くぎりぎりのところで唱えた魔法が発動し、彼らの姿は瞬く間に消えてしまった。
届かなかった水の刃は元の液体に戻り、地面へと零れ落ちる。

 おそらくあの魔界の政務補佐官は、大地の精霊の娘を自身の居場所である魔界へ連れて行ったのだろう。
確かに魔界はユーフェイにも手が出せない。だが、彼らの棲む世界はこの世界に棲む妖精や精霊達にとって不浄の地とも言える。
どちらにしても、あの大地の精霊の娘にとっては辛いだろう。むしろこの場でユーフェイに消されていた方がましだったと思うはずだ。
連れて行かれた大地の精霊の娘を哀れみながら、ユーフェイは握っていた双剣を消し、その場を後にした。
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