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文字数 1,042文字

ジンフーの確認に力強く頷く。休ませてもらったおかげで帰りの心配はなさそうだ。
 ただ、少々気になることがある。
この図書館へ来る時に襲い掛かってきた触手の主のことだ。また鉢合わせるかもしれない。
いくら海が広いからといって絶対遭わない保証もない。
ナズナの懸念を感じ取ったのか、ジンフーがにっこりと輝くような笑みを浮かべた。

「大丈夫ですよ、シェンジャ様。
 次は貴女が捕らえられる前に仕留めますから」

 知識の宝庫を後にし、再び三人は海の中を漂う。
海中は相変わらず静寂を保っていた。触手の主を警戒しながら三人は海面へと浮上していく。幸いなことに、海面近くまで上昇しても触手の主と遭遇することはなかった。
海面に近づくことで、きらきらと差し込む太陽の光がまるで風に揺れるカーテンのように揺れている。色とりどりの魚達の姿も見られるようになってきた。
海面から顔を出すと、海の色とは違う青がナズナ達を出迎える。眩しい陽光に目を細めた。遠くの方では帆船の姿も見える。

 行きは目的地に向かいながら潜ってきたが、今回はまず海面に浮上してから元の場所に戻るつもりである。
これなら途中でナズナの集中力とユーフェイとの同調が途切れてしまっても、リュウシン達がすぐにフォロー出来る。
ひたすら泳ぎ、太陽が海に沈む頃、ようやくあの浜辺へと到着した。
夕陽と波の音があの時を思い出させる。きゅっと唇を噛み締め、ナズナは日が沈みつつある地平線を睨み付けた。

 ユーフェイの魔力が戻ってきたせいか、行きとは違い思っていたよりも疲労していない。
すぐにでも獣人族の集落へと向かうことが出来そうだ。
しかし、三人のうち誰も集落の位置を把握していないことに気付く。
 確か獣人族の集落は、ファリド族のそれと同じように季節によって移動する。
東大陸の者とやり取りをする唯一の種族であるから、海沿いに進んで行けばいずれ辿り着くだろうが…如何せん効率が悪いように思える。
メルセデスか神威なら知っているだろうかと思い、ナズナは二人を召喚した。
主の意向を汲んで、メルセデスが渋い顔で応じる。

『申し訳ありませんが、私も神威さんも獣人族の皆様がこの時期どちらにいらっしゃるか存じ上げませんの』

 数年前から獣人族と他の種族の交流は活性化したものの、集落への道はあまり明確にされていない。ファリド族のように何かしらの痕跡を残さないからだ。
かといって集落に入れない訳でもないし、そこまで排他的な種族でもない。
集落へ入るには獣人族の案内か、集落へと導く道具が必要である。
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