15-9
文字数 1,074文字
しずしずと入ってきた女性は、ナズナより少し上の年恰好をした人間の女性だった。
彼女の首にはこの国に生きる人間の証である皮の首輪が巻き付いている。
身なりは城に仕える女性が身に着けるような、装飾の派手すぎない品の良い着物を纏っている。
赤い髪を下の方で丸くまとめ、恐縮そうに緑の瞳がナズナの様子を窺っていた。
女性はナズナの前に立つと勢いよくその場に平伏する。
「ホムラ様より、この着物に着替えた後部屋の近くに待機しているアカツキ様と共に謁見の間へ来るよう言われております」
「は、はい…よろしくお願いします。
…ええと、貴方のお名前を聞いてもいいですか?」
ナズナの言葉に女性の緑の目が丸くなり、そして顔を上げた。だがすぐに顔を伏せ、身体を固くする。
「そ、そんな…私はただの召使いに過ぎません。
貴方のような、高貴な身分…未来の王妃様に覚えて頂くような存在では…」
距離を取ろうとする女性の態度にナズナは寂しさを感じつつも、上下関係が明確なこの国では仕方のないことなのかもしれないと半ば諦めていた。
もしナズナがこの女性と同じような立場なら、やはり彼女と同じように接していただろうから。
だが、ナズナはこの国に生まれ育った者ではない。そしてこれからもここで竜人族の王の妃として生きていくつもりもない。
故に自分にはこの国の上下関係というものに囚われないはずだ。そうナズナは考えているが、その考えをこの女性に押し付ける訳にはいかない。もう一度聞いて、それでもだめなら諦めるつもりだ。
「私も…種族はどちらかといえば人間です。他国の者で、ここの文化やしきたりにまだ慣れていないのです。
そう恐縮されると私も緊張してしまいます。難しいかもしれませんが、どうかそこまで恐縮なさらずに」
「はあ…」
「それに、これからいろいろお世話になるかもしれません。ですからよろしければ、貴方の名前を教えて頂けると嬉しいです」
女性は躊躇うように唸っていた。そろそろと伏せていた顔を上げ、何度か視線を彷徨わせる。やがてナズナの首輪を見て意を決した。
「私の名はカエデと申します、お嬢様…」
「ありがとうございます、カエデさん。私の名前はナズナと申します。どうか、これからもよろしくお願いしますね」
ぎこちないながらも、ナズナはカエデに笑いかけた。短い付き合いでも、なるべく良好な関係でいたい。少しだけ肩の力が抜けたのか、カエデもぎこちない笑みを返した。
彼女は畳んである着物を抱え、ナズナの側に立ち着替えさせる。
着替えさせられている間、二人はほぼ無言ではあったが、最初にあった緊張感は和らいでいた。
彼女の首にはこの国に生きる人間の証である皮の首輪が巻き付いている。
身なりは城に仕える女性が身に着けるような、装飾の派手すぎない品の良い着物を纏っている。
赤い髪を下の方で丸くまとめ、恐縮そうに緑の瞳がナズナの様子を窺っていた。
女性はナズナの前に立つと勢いよくその場に平伏する。
「ホムラ様より、この着物に着替えた後部屋の近くに待機しているアカツキ様と共に謁見の間へ来るよう言われております」
「は、はい…よろしくお願いします。
…ええと、貴方のお名前を聞いてもいいですか?」
ナズナの言葉に女性の緑の目が丸くなり、そして顔を上げた。だがすぐに顔を伏せ、身体を固くする。
「そ、そんな…私はただの召使いに過ぎません。
貴方のような、高貴な身分…未来の王妃様に覚えて頂くような存在では…」
距離を取ろうとする女性の態度にナズナは寂しさを感じつつも、上下関係が明確なこの国では仕方のないことなのかもしれないと半ば諦めていた。
もしナズナがこの女性と同じような立場なら、やはり彼女と同じように接していただろうから。
だが、ナズナはこの国に生まれ育った者ではない。そしてこれからもここで竜人族の王の妃として生きていくつもりもない。
故に自分にはこの国の上下関係というものに囚われないはずだ。そうナズナは考えているが、その考えをこの女性に押し付ける訳にはいかない。もう一度聞いて、それでもだめなら諦めるつもりだ。
「私も…種族はどちらかといえば人間です。他国の者で、ここの文化やしきたりにまだ慣れていないのです。
そう恐縮されると私も緊張してしまいます。難しいかもしれませんが、どうかそこまで恐縮なさらずに」
「はあ…」
「それに、これからいろいろお世話になるかもしれません。ですからよろしければ、貴方の名前を教えて頂けると嬉しいです」
女性は躊躇うように唸っていた。そろそろと伏せていた顔を上げ、何度か視線を彷徨わせる。やがてナズナの首輪を見て意を決した。
「私の名はカエデと申します、お嬢様…」
「ありがとうございます、カエデさん。私の名前はナズナと申します。どうか、これからもよろしくお願いしますね」
ぎこちないながらも、ナズナはカエデに笑いかけた。短い付き合いでも、なるべく良好な関係でいたい。少しだけ肩の力が抜けたのか、カエデもぎこちない笑みを返した。
彼女は畳んである着物を抱え、ナズナの側に立ち着替えさせる。
着替えさせられている間、二人はほぼ無言ではあったが、最初にあった緊張感は和らいでいた。