7-17

文字数 696文字

従妹の無事を確認し、ヴィルヘルムの声がいつもの調子に戻った。

「やあナズナ、遅くなってごめんね。怖かっただろう?もう大丈夫だから」

「ヴィル…!」

 ナイフの切っ先をリュウシンの首元に向けたまま、ヴィルヘルムは従妹を安心させるようににっこりと優しく微笑んだ。ソルーシュの武器である曲刀の切っ先も、ジンフーの喉元に向けられている。
紫の瞳で誘拐者二人を鋭く見据えたまま、ソルーシュはさらに追い詰める。

「さーて、神妙にしろよ。まずはナズナ姫をオレに返してもらおうか」

「僕達に、でしょ。ナズナはソルのものじゃない」

細かいことに突っ込む幼馴染をソルーシュは鼻を鳴らすことで軽く流す。
 邪魔が入ったことにより、リュウシンの目つきもさらに鋭くなった。しかし喉元にナイフが突きつけられていてはどうしようもないので、リュウシンは抱えていたナズナをゆっくりとした動作で下ろす。
彼女の足が地についたのを見計らい、ソルーシュが曲刀の切っ先をジンフーに向けたままナズナに向かって手招きする。

 ナズナが幼馴染の指示に従って動こうとしたところで、リュウシンとジンフーが動いた。
ジンフーは片手でソルーシュの曲刀を払い除け、リュウシンは前を向いたままヴィルヘルムの脛に蹴りを食らわして怯ませる。
そして目にも止まらない速さで再びナズナの華奢な身体を捕らえると、ジンフーが懐から札を取り出し、地面に叩きつけた。
すると札から煙が瞬時に湧き上がり、その場にいた町の人々や騎士達が混乱し、騒然とする。当然、リュウシン達の姿も見失ってしまう。

「あの野郎…!」

 煙に咽ながらソルーシュは悪態を吐く。しかし、その悪態も虚しく煙の中へと消えて行った。
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