8-12
文字数 1,046文字
「これは大変失礼致しました。では、私達はしばらく席を外しましょう」
ジンフーの申し出にリュウシンがぎょっとする。監視対象である神の花嫁から目を離していいはずがない。まだ体力が戻っていないとはいえ、ユーフェイの力を使って逃げ出す可能性がある。
元同僚の懸念を払拭するかのようにジンフーが朗らかに笑いながらきっぱりと言い切った。
「大丈夫ですよ。シェンジャ様は思慮深い方ですから、軽率な行動はしないでしょう」
「しかし…」
渋るリュウシンを横目に、ジンフーはちらりとナズナに同意を促すような視線を寄越してくる。
内心溜息を吐きながら、ナズナは彼に同意した。
「…この方の仰る通りです。私はあの時のように逃げたりしません」
リュウシンの疑いの眼差しを見返すことで撥ね退ける。
逃げようと思えば確かに逃げられる。しかし、記憶を取り戻すと決意した時、ナズナはどんなに辛くなろうとも目を逸らさずに、真実と向き合うと決めた。
例えその先に待ち受けるものが何であろうとも。
険しい目つきでナズナを睨んでいたリュウシンの緑の瞳が勢いよく逸らされる。彼はそれ以上何も言わず、大股歩きで部屋から出て行った。彼の元同僚も肩を小さく竦め、立ち上がる。
「ではシェンジャ様、また数刻経った後に戻りますね」
そう言いつつ、彼は懐から一枚のカードを取り出してサイドテーブルの上に置いた。
置かれたカードに描かれているのは大地の精霊の娘、メルセデス。
彼がどういった意図で返してくれたのかは不明である。ジンフーの気が変わらないうちにナズナは置かれたカードを素早く自分の元へ引き寄せた。
それを見届けたジンフーは薄く笑うと、先に出て行ったリュウシンの後を追う。
部屋の前から完全にジンフー達の気配が無くなると、ナズナは大地の精霊の娘の名を呼んだ。
「メルセデス」
大地の精霊の娘は間を置かずに豊かな茶色の巻き毛を揺らして現れた。
その美しい顔には主を気遣う表情が浮かんでいる。
『ナズナ様…』
「…お久しぶりです。情けない主で申し訳ありません」
自分の不甲斐無さを謝罪するナズナに、メルセデスは必死に首を振って否定した。
『そんな…!それよりも、お加減は如何ですの?』
「おかげ様で大分良くなりましたよ」
弱々しい笑みではあったが、顔色は大分いい方だったのでメルセデスは一旦安堵する。
主の体調も心配ではあるが、彼女が本当に尋ねたいことはあの水妖族の神についてだった。
メルセデスは背筋を伸ばしてナズナに呼びかける。
『あの…ナズナ様、少しお尋ねしたいことがあるのですが…』
ジンフーの申し出にリュウシンがぎょっとする。監視対象である神の花嫁から目を離していいはずがない。まだ体力が戻っていないとはいえ、ユーフェイの力を使って逃げ出す可能性がある。
元同僚の懸念を払拭するかのようにジンフーが朗らかに笑いながらきっぱりと言い切った。
「大丈夫ですよ。シェンジャ様は思慮深い方ですから、軽率な行動はしないでしょう」
「しかし…」
渋るリュウシンを横目に、ジンフーはちらりとナズナに同意を促すような視線を寄越してくる。
内心溜息を吐きながら、ナズナは彼に同意した。
「…この方の仰る通りです。私はあの時のように逃げたりしません」
リュウシンの疑いの眼差しを見返すことで撥ね退ける。
逃げようと思えば確かに逃げられる。しかし、記憶を取り戻すと決意した時、ナズナはどんなに辛くなろうとも目を逸らさずに、真実と向き合うと決めた。
例えその先に待ち受けるものが何であろうとも。
険しい目つきでナズナを睨んでいたリュウシンの緑の瞳が勢いよく逸らされる。彼はそれ以上何も言わず、大股歩きで部屋から出て行った。彼の元同僚も肩を小さく竦め、立ち上がる。
「ではシェンジャ様、また数刻経った後に戻りますね」
そう言いつつ、彼は懐から一枚のカードを取り出してサイドテーブルの上に置いた。
置かれたカードに描かれているのは大地の精霊の娘、メルセデス。
彼がどういった意図で返してくれたのかは不明である。ジンフーの気が変わらないうちにナズナは置かれたカードを素早く自分の元へ引き寄せた。
それを見届けたジンフーは薄く笑うと、先に出て行ったリュウシンの後を追う。
部屋の前から完全にジンフー達の気配が無くなると、ナズナは大地の精霊の娘の名を呼んだ。
「メルセデス」
大地の精霊の娘は間を置かずに豊かな茶色の巻き毛を揺らして現れた。
その美しい顔には主を気遣う表情が浮かんでいる。
『ナズナ様…』
「…お久しぶりです。情けない主で申し訳ありません」
自分の不甲斐無さを謝罪するナズナに、メルセデスは必死に首を振って否定した。
『そんな…!それよりも、お加減は如何ですの?』
「おかげ様で大分良くなりましたよ」
弱々しい笑みではあったが、顔色は大分いい方だったのでメルセデスは一旦安堵する。
主の体調も心配ではあるが、彼女が本当に尋ねたいことはあの水妖族の神についてだった。
メルセデスは背筋を伸ばしてナズナに呼びかける。
『あの…ナズナ様、少しお尋ねしたいことがあるのですが…』