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文字数 1,028文字

この微妙な居心地の悪さは、かつて自身のために開かれた舞踏会が始まる前の様子を思い出させる。
人間と妖精の混血が珍しいからかと思ったが、純粋な人間や獣人族、それにスバルと同じ有翼人種の姿もあるため違うようだ。
ナズナの心の中を読んだかのようにリフィーが言った。

「貴方のような人間と妖精の混血児は昔ならともかく、今は珍しくも何ともないわよ。
 むしろ皆が興味を持っているのは、貴方の中にいる存在かな」

 ナズナの中にいる存在…というと思い当たる者は一人しかいない。水妖族の神ユーフェイだ。
この世界の住人でない者、エリゴスもそうと言えばそうだが、彼は今ナズナの中にいない。
妖精達がユーフェイに対してどう興味を持っているのか、それも不思議だった。さらにリフィーは続ける。

「だって“彼”、私達のような生まれた時から精霊っていう存在じゃないでしょう?
 魔力の強さこそ私達と同等だけれど、何ていうか質?みたいなものが違うのよ」

彼女の的を射た発言にどきりとした。やはり彼女達には何か感じられるのかもしれない。
彼が生まれついての神ではなく、造られた神だということが。
妖精の血が少し混じっているとはいえ、ナズナには彼女の言う微妙な違いがよく分からなかった。

「…と、そうこうしているうちに着いたわ」

 ほら、と示すリフィーの手の導きに従って見ると、そこには巨大な樹が生い茂っていた。
その幹は国境の森で見た樫の木よりも数倍太く、空に向かって伸びている枝や地面に張っている根もそこらで見る木々よりどっしりとしている。
枝から生えている葉は大体が黄金色を湛えており、太陽の輝きと風の囁きを受けて静かに揺れていた。
しかし、四大精霊の一人ガイアがいると思われる神殿らしき建物は見当たらず、ナズナは首を傾げる。

「あの…それらしき建物が見当たらないのですが…」

疑問符を浮かべているナズナを見て、リフィーは悪戯っぽく笑った。

「初めて来た人って皆そう言うんだよね。そこの大きな樹が、私達の母であり、四大精霊の一人である大地の精霊ガイアのいる神殿よ」

「え…?こ、この樹が…?!」

 とてもそう見えずにナズナはただ口を大きく開けて驚いている。そんな彼女を見て、リフィーは楽しそうに笑いながら、樹の根本に近づく。
ナズナもそれに倣うと、樹の根の間に大人が一人通れるくらいの穴が開いていた。
ここが神殿の入り口なのだろうか。妖精の少女に背を押され、恐る恐る足を踏み入れる。
穴の中だから真っ暗かと思ったが、そうでもなかった。
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