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文字数 1,060文字

 神威が焦って幼いナズナを止めようとするが、ここが記憶の中の世界であって自分達が全く干渉出来ないことを思い出す。力なく首を振り、一瞬物言いたげに幼いソルーシュを見た。
 幼いソルーシュはナズナの小さな背中を半ば睨み付けるように見送っていた。やがて彼は孤児院の方へと戻っていく。
彼の姿が消えると、海岸の方から波の音とは異なる水音が聞こえた。
海の中から水妖族と思われる男がゆっくりとした足取りで上がってくる。男の顔を布で出来た面を被っていたため、どんな容姿なのか、あるいは何歳なのか窺い知れない。水妖族の特徴である鱗のような耳と、瑠璃色の髪しか分からなかった。
水妖族の男性はぐるりと辺りを見渡し、幼いナズナが向かった先を見据えると気配を殺してそちらへ向かい始めた。

『なるほど…こうしてナズナは水妖族の国へ連れて行かれたのですね』

『しかし何故、別大陸に生きるナズナ様がこの方の花嫁に選ばれたのです?』

大地の精霊の娘の質問に水妖族の神が答える。

『皇帝が術を用いて選定するのだ。膨大な魔力を秘めた、高貴な血の流れる娘を』

 全ては帝国繁栄のため。
確かに言われてみれば、ナズナは条件に当てはまる。条件に当てはまるのであれば、別大陸に生きる異種族でも何ら問題ないらしい。
同胞である水妖族から花嫁が選定されない理由としては、やはり神の花嫁とは言えただの生贄に過ぎないからだろう。言い方は悪いが、所詮は使い捨ての駒に過ぎないのだ。



「オレのせいで、ナズナ姫が水妖族の連中に攫われたんです。
 オレがあんなことを言わなければ、ナズナ姫は…」

 血を吐くような思いでソルーシュはかつての過ちを告白する。
その告白をジェラルドはただ黙って聞いていた。
だからこのファリド族の青年はあの令嬢にああまでして尽くしていたのか。彼が過保護すぎた理由に、そして先程の好きになる資格云々について納得がいった。
 彼は今でも悔いている。だが、ジェラルドが思うにナズナは真実を知っても彼を責めることはしないだろう。
確かにきっかけを作ったのはソルーシュだが、実行したのは他ならぬナズナだ。子供と言えど、彼女は彼女の意地を通しただけに過ぎない。
そうジェラルドは思ったのだが、ソルーシュと物陰に潜んでいた者はそう思わなかったようだった。

 物陰に潜んでいた者…ヴィルヘルムは衝撃を受けていた。
従妹が攫われた原因があの幼馴染の青年だったとは。
かつて従妹が攫われたことを知った時、彼はすでに騎士団へと戻っていたため何も出来なかった。あの無力感と悔しさは今でも鮮明に思い出すことが出来る。
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