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文字数 1,059文字

自国について口を挟む竜人族の少女にリュウシンが物凄い剣幕で怒鳴った。

「余所者が余計な口を挟むな!」

「自分の種族が一番っていう誇りを持つことは悪いことじゃないけど、奢り過ぎるのも問題だよ。
 そんなんだから、あんた達の住んでいる大陸は争いが終わらないんだ」

パウラの鋭い指摘にユーフェイが高らかに笑う。

『なるほど、一理ある』

「あたし達竜人族も、かつてはあんた達水妖族と同じように自分達が最も優れた種族だと思っていたよ。
 だけど、いろんな種族と戦って、交流を深めて、時間は掛かったけどその認識は改められた。どの種族も、それぞれいいところがあるってね。
 だからあんた達水妖族もそろそろ変わる時が来たんじゃないの」

竜人族の少女の言葉にリュウシンが肩を怒らせて反論しようと口を開こうとし、奥歯を強く噛み締めた。
 彼女の言うことは一理ある。だが、そう簡単にリュウシン達の認識が変われる訳がない。彼らはずっとそのようにして生きてきたのだから。
ユーフェイはそっと隣に座る花嫁の様子を窺う。
幼馴染達の再会で、約束を果たす決意は揺らいでいないだろうか。もしも迷いが少しでもあるようなら、その時は…。

 ふと殺気を感じてユーフェイは顔を上げる。殺気を送る者の正体は獣人族の貴公子だ。
彼の青い瞳がユーフェイを射殺さんばかりに鋭く細められている。
その青い瞳の奥に潜む感情を水妖族の神は敏感に悟る。
 この獣人族の貴公子は、彼の花嫁であるナズナに対して好意を抱いているのだろう。だから彼はナズナを惑わす存在であるユーフェイのことが気に食わないのだ。
彼はどうにかしてユーフェイからナズナを引き離そうとしている。それは獣人族の貴公子だけでなく、従兄の騎士もそうだ。
唯一迷いが生じているのは、あの幼馴染の商人くらいだろう。
彼はナズナを止めたいという気持ちがあるものの、過去のこともあってか強く出られないようだ。ユーフェイの勘では、彼はナズナに対して親愛以上の気持ちを抱いている。

 幸い、彼らの気持ちはナズナに届いていない。だがもし仮に届いていたとしても、彼女を手放す気はさらさらなかった。
ユーフェイは挑むような目つきでジェラルドを睨み返す。視線で火花を散らし合う二人をよそに、ナズナは幼馴染の商人の方を気にしていた。
向こうも同じように気にしており、ナズナにどう声を掛けるべきか悩んでいるようだ。
それに気づいたパウラがソルーシュの背を押そうと口を開こうとするが、またしても空気の読めない彼が割り込む。

「ナズナとしては、この彼の花嫁になるってこと…嫌じゃないの?」
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