5-11

文字数 1,040文字

ソルーシュの言葉を聞き、ヴィルヘルムは彼の腕に抱えられているナズナへと視線を移す。彼女はまだ意識を取り戻していないようだった。
 腑に落ちないものの、この幼馴染の商人は真面目な場面で冗談こそ言うが、決して嘘は言わない。詳しいことは彼女の目が覚めた時に直接尋ねた方がいいだろう。

「…何となくは理解したよ。とにかく、今はここから離れようか」

「ああ…」

ソルーシュはちらりとリュウシンが吹っ飛ばされた方向を見、幼馴染と共に足早にその場を立ち去った。



 ゆらゆらとしたこの浮遊感にナズナはどこか懐かしさを感じていた。
確か自分は前にもこんな感覚を味わったことがある。誰かに抱えられて、そして誰かに追われていた。

「私…」

目を覚ますと、ソルーシュの金の髪と頭に巻いている青い布が視界に入る。顔を横に向けると、厳しい表情で前を見据え並走する従兄の騎士が見えた。
ナズナの気が付いたことに気付いたヴィルヘルムが、厳しい表情をほんの少しだけ緩ませて微笑み掛けてくる。

「あ、ナズナ!気が付いたんだね」

「は、はい…だけどあの…リュウシンは…」

隠しても仕方がないと思ったのか、ヴィルヘルムは幼馴染から聞いたことをそのまま従妹に伝える。

「ナズナ、君が追い払ったみたいだよ」

「え?!私がですか?!」

全く記憶が無い話に当然ナズナは面食らう。彼女の記憶はソルーシュ達と共にリュウシンの前から逃げ出すところで途切れている。
 意識を手放している間に何があったのか。ナズナは自分自身に恐れを抱き、ほぼ無意識にソルーシュの背中に縋りつく。
彼女から顔が見えないことをいいことに、彼の表情はほんの少しだけ緩んでいた。ヴィルヘルムの氷のような視線を受けてすぐに引き締めたが。
ナズナが意識を取り戻したということで、彼女はソルーシュの背中から下ろしてもらう。

「ソル、ありがとうございました」

「どう致しまして。オレとしてはずっとおんぶしていてもよかったんですけどね」

役得だったし、という付け加えられた彼の呟きにナズナは首を傾げる。そこへ剣を片手に爽やかな笑顔を浮かべたヴィルヘルムが割り込んできた。

「別に分からなくていいよ、ナズナ。そんなにおんぶが好きなら、エリゴス殿をおんぶしていたらどうだい?」

幼馴染のしょっぱい提案にソルーシュは断固拒否する。

「やなこった!何でそうなるんだよ?オレのひろーい背中は女性専用なの!
 野郎は怪我人と老人以外お断りだ!」

「さて、もうすぐ出口だ。少し休んでから行きたいところだけど…もう少し頑張ろうね、ナズナ」
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