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文字数 1,020文字

 幼馴染の青年の言葉を聞いて、ヴィルヘルムは目を丸くした。ややあって盛大に溜息を吐く。
責めるつもりだったのに、彼の言葉でそんな気は削がれてしまった。空気が読めないヴィルヘルムであったが、そんな彼にでも一つだけ分かることがある。

「君って本当にナズナのことが好きだよね」

別に深い意味を含めて言ったつもりではないが、ソルーシュにはそういう意味で捕らえてしまったらしい。

「は?!い、いや、あの…確かにナズナ姫のことは好きだけど、オレは…その…」

 大の男が顔を赤くしてもじもじとしている。女性ならそんな姿も可愛いと思えたが、幼馴染の青年(しかもでかい)なのでちっとも可愛くない上に気色悪い。
そんな彼の姿にヴィルヘルムは露骨に顔を顰めた。

「もじもじしないでよ。その姿すごく気持ち悪い」

「気持ち悪い?!ひどくね?!」

ソルーシュ的には結構深刻に悩んでいるのだが。怒れる幼馴染を放置し、ヴィルヘルムも部屋へと戻る。そろそろ出発の時刻が迫っていた。
おそらく今頃後輩の竜人族の少女も目を覚ましている頃だろう。



「いつまで休んでいる。そろそろ起きろ」

 厳しい声と肩を強く揺すられる感覚でナズナの重い瞼が開けられる。リュウシンのしかめた顔が待ち構えていた。
あまり働かない頭の中で、傍にいてくれたユーフェイのことを考える。
何も言わず、じっと静かに隣にいてくれた。たったそれだけのことなのに、ナズナの心が慰められたような気がする。
いつの間にかナズナの中でユーフェイも神威達と同じような、安らげる存在になりつつあるのだろう。以前はそう感じなかったのに。

「おい、聞いているのか?」

なかなか意識を現実へと戻さないナズナに苛立つリュウシンの声がさらに鋭くなる。
そこでようやくナズナは意識を覚醒させ、不機嫌な水妖族の青年の方へと向けた。
 反射的に立ち上がろうとし、リュウシンの頭と激突する。お互い石頭なため痛みに悶える。先に痛みから回復したリュウシンがぎろりとナズナを睨み付けた。

「…いい度胸だな」

「ひぃ…!す、すみません!わざとでは…!」

「はいはい、二人ともじゃれ合ってないでそろそろ出発致しますよ」

ジンフーの言葉にリュウシンが反論しようとしたものの、いつもの調子で軽くあしらわれる。ぶつぶつと元同僚を罵りながら、彼は先に部屋を出て行く。
苦笑しながらジンフーがナズナの手を取り助け起こした。

「あ、ありがとうございます」

「どういたしまして。それよりシェンジャ様、行けそうですか?」
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