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文字数 1,016文字

疾走する紫の炎の合間を縫って、ヴィルヘルムとソルーシュがメルセデスの元へ走った。
 目の前に現れた二人に気づいたメルセデスが剣を地面に叩きつけるような攻撃を繰り出す。素早さに自身のあるソルーシュが囮役を引き受け、なるべく体力を消費しないように彼女の剣が当たりそうになるぎりぎりのところで避ける。
その間にヴィルヘルムは盾を適当なところに投げ置き、いつも身に着けている黒マントを留める金具を外して左手に持ち、メルセデスの身体を地道によじ登っていく。

 エリゴスの力を借りた魔法により、大多数の植物達を沈黙させたナズナもソルーシュの援護に回った。ナズナはエリゴスを戻し、神威を再び召喚してソルーシュの隣に付き従わせる。もしもソルーシュが避け損なった時のための保険である。
 メルセデスはその場から動かず、攻撃時の破壊力はあるものの命中率はあまりいい方ではない。当たれば痛いで済まないだろうが、当たらなければ問題無い。
それにソルーシュがちょこまかと避けることに苛立っているせいか、余計に攻撃が雑になっていく。おかげで彼があまり体力を消費せずに避けられるのだが。
 一方、メルセデスの頭に到達したヴィルヘルムから自身の黒マントで彼女に目隠しをする。突然視界が真っ暗になって混乱したメルセデスが咆哮を上げて暴れ出す。
ソルーシュの隣に控えていた神威が地面を蹴って鳥の姿になり、再びメルセデスの前へ素早い動きで飛び立つ。そのまま彼女の懐を嘴で探り、目当てのものを掠め取った。旋回して神威はナズナの前へ降り立ち、彼女の記憶の欠片を押し付ける。

 メルセデスの異変の原因を取り除いたことで、彼女は暴れることを止めた。動きが止まったことにより、ヴィルヘルムは目隠しとして彼女の顔を覆っていたマントを取って急ぎ彼女の身体から降りた。
すると光がメルセデスを取り巻き、優しく彼女を包み込む。メルセデスの身体が徐々に縮まり、初めて会った時の人間の女性とそう変わらない姿に戻って地に伏した。

『メルセデス!』

 慌てて神威が人型になり倒れた彼女を抱き起こす。メルセデスは精霊なので身体が傷つくことはないが、やはり心配なのだろう。
しばらくしてメルセデスは数回瞬きし、自身の顔を覗き込んでいる者が誰なのかをぼんやりとした頭で思い出そうとしていた。そして思い出すや否や、顔を真っ赤に染めて慌てて神威の胸を押し返す。

『か…神威さん…!!』

『メルセデス…。よかった…気が付いたのですね…』
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