11-7

文字数 1,026文字

欠片の気配は感じるというのに、一向に見つからない。数時間経った今でもそうだ。
 これだけ探しても全然見つからないので、だんだんリュウシンの眉間に深い皺が刻まれていく。
無理も無いだろうと、ナズナは心の中で溜息を吐いた。
先程エリゴスが現れた時に隠し場所を聞いておくべきだった。
そう考えてナズナははっとし、ジンフーに詰め寄る。

「ジンフー」

「はい?」

「私のカードを返して下さい」

 そう、聞けばいいのだ。ナズナの記憶を隠した張本人に。
しかし何の説明も無しの要求に当然ジンフーとリュウシンは困惑している。

「な、何故今?」

「欠片を隠した方が、そのカードにいるのです」



 浅い眠りから覚め、ジェラルドは寝転んだまま何気なしに周りを見渡した。
両隣のベッドでは彼の同僚と後輩が穏やかな寝息を立てて眠っている。壁に掛けてある古ぼけた時計を見れば、まだ出発予定時間よりも大分前の時刻を示していた。
もう一寝入りするか、と考えたところで商人の姿が無いことに気付く。何となく気になって起き上がり、部屋を出た。

 階段近くにあるソファにソルーシュが所在無げに座っている。
やはり普段のような快活さはない。その上、ジェラルドが彼に近寄っても億劫そうに顔を上げただけだった。

「…まだ休んでいても問題無い時刻だが」

「何となく、目が冴えちゃいましてね。
 こう、いろいろ考えていたら」

「ナズナのことか」

図星を突いたようで、返事の代わりに彼の紫の瞳が泳ぎ、そして乾いた笑い声が返ってきた。ジェラルドがどかりとソルーシュの向かいのソファに座り、彼の瞳を見据える。

 彼とソルーシュとの付き合いは長いものではあるが浅いもので、ジェラルドはこの商人のことを女好きの胡散臭いお調子者だと思っていた。また、ナズナのことに関しては他の女性よりも気に掛けていて、てっきり彼も彼女のことをそういう対象に見ているのだと思っていたのだが、あの発言を聞いてどうも違うような気がしてきた。
 彼女の所在を突き止めたあの時、彼の瞳に恐れが生じたことをジェラルドは敏感に感じ取った。一体、彼は何を恐れているのだろうか。
少し躊躇ったが、思い切ってジェラルドが切り込む。

「ソルーシュ=クリシュナ。お前は何を恐れている?」

「!!か…閣下…オレは何も…」

弱々しい声で否定しても無意味だと自身でも気づいたのか、ソルーシュは一旦口を噤む。彼も迷っていたが、ジェラルドの口の堅さを信じてぽつりぽつりと語り出す。

「オレ、ナズナ姫に会うのが怖いんです」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み