12-17

文字数 1,257文字

 それにしても、とナズナは改めてホムラを注意深く観察する。
一体彼は何の目的で自分を買ったのだろうか。しかもかなりの額を出してまで。
ナズナの中に四人の契約者がいるから、という理由だけではない気がする。
 世界は広いのだから、ナズナ以上にたくさん契約を交わしている人間もいるはずだ。別に珍しくも何ともない。
思案している主に、大地の精霊の娘が自分の推測を述べる。

『ひょっとして…彼の王はユーフェイ様が目的なのでは?』

『どういうことですか、メルセデス?』

想い人に尋ねられて一瞬メルセデスは言葉に詰まったが、どうにか先を続ける。

『確か、ツァンフー帝国とコウヅキ国は今でこそ停戦しているものの、争っていた歴史がありましたよね?
 おそらく彼は、ナズナ様の中にいるユーフェイ様に気づいて何かに利用しようとしているのではないでしょうか』

 説得力のある仮説に全員がなるほど、と納得する。
確かに敵国の手に自分達が崇める神が落ちたとすれば、士気に関わる。神を取り戻そうと戦意を上昇させてしまう可能性もあるが、浮足立たせることは出来るだろう。
取引と称して水妖族の領土を奪ったりすることも可能だ。使い道はいくらでもある。

『エリゴス殿はどう思いますか…ってあれ?』

神威が魔界の王に話を振るが、当のエリゴスは不在だった。こんな時でも彼は自由である。どうせまた書類処理に追われているのだろう。
ともかく、と水妖族の神が話をまとめる。

『目的を探りつつ、様子を窺った方が良さそうだな。
 我が花嫁…見知らぬ場所で心細いだろうが、我々は常に汝と共にある。それを忘れるなよ』

「どうしました?」

 水妖族の神の言葉に被せるように、ホムラが話し掛けてきた。彼はにこにこと人の良い笑みを浮かべている。何を考えているのか悟らせないものだ。その得体の知れない笑みがあの水妖族の青年を思い出させた。

「…いいえ。ところで、私は何をすればよろしいのですか?御用が無ければ下がらせて頂いても?」

「あれ?意外と素直なんだね。てっきり、さっきみたいに抵抗するかと思っていたのに」

少々残念そうにホムラが言った。もちろん、抵抗出来るならしたいところだが、今のナズナには首輪がある。首輪をつけたあの男…タツミの言葉が本当なら、迂闊に動けない。
 どうにかしてこの首輪を外す方法を見つけなければ。
そうすると、ホムラよりもタツミに接触することが最優先だ。出来ることならすぐにでも向かいたいところだが、竜人族の王にはお見通しだった。

「タツミはしばらくこの国を離れるつもりだから、探そうとしても無駄だよ」

内心驚き、ナズナは誤魔化すような曖昧な笑みを浮かべた。動揺し過ぎたあまり引き攣ってしまったような気がするが。
それでもホムラはナズナを咎めない。茶を飲み干し、立ち上がる。

「おいで。今日から君が暮らす部屋へ案内しよう。何て呼べばいいかな?」

一瞬普通に名乗ってしまってよいものかと考える。迷った末、名前だけ名乗っておくことにした。

「…ナズナとお呼びください、陛下」

「ナズナ…ね。改めて、今日からよろしく」
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