7-12

文字数 1,026文字

ユーフェイの真剣な表情を見るに、それはとても重要な約束だということが何となく分かる。

「私は…貴方とどんな約束を…」

 彼は答えるか迷った。
ナズナの記憶のこともあり、心に負担が掛かることを懸念して自発的に思い出して欲しかったのだが。
しかしこうして水妖族の者に捕らえられてしまった以上、今が話すいい機会なのかもしれない。夢の中でなら、ユーフェイが主導権を握っているので厄介なエリゴス達が邪魔してくることもないだろう。神威やメルセデスも干渉出来ない場所なのだ。

『我々がかつて水妖族の神殿に幽閉されていたことは覚えているな?』

最近思い出してきた記憶の確認にナズナは小さく頷く。
どのような儀式でユーフェイを召喚したかは分からないが、その後どこかの神殿で共に暮らしているような感じだった。
ナズナに確認を取り、さらにユーフェイは続けた。

『幼い汝は何度か脱走を試みては連れ戻され、仕置きに懲りてしばらく大人しく過ごしていた。
 しかしある日、世話役の侍女に自分の母君の面影を見たのだろう。それで汝は帰りたいと泣いて我や護衛の子供を困らせていた』

 その辺りの記憶はまだ戻ってきていないが、幼い子供ならば誰でも有り得る話だった。
今となっては少々恥ずかしいものだが、それは幼いナズナにとって大きな問題である。
彼女を宥めることに手を焼いた真面目なリュウシンが律儀に上役に相談してしまったことで、さらに護衛の数を増やされたらしい。
そのおかげで幼いナズナの精神が限界に近くなったこともあり、見兼ねてユーフェイが救いの手を差し伸べたのだ。

『そこで我は汝に尋ねたのだ。ここから出たいのか、と』

追い詰められていたナズナの答えは聞くまでもなかった。とはいえ、ユーフェイの方もただの憐みから彼女に救いの手を差し伸べた訳ではない。
そのことに気が付いたナズナがはっとし、呟いた。

「そしてそこで約束を交わしたのですね…」

『ああ』

「幼い私をそこから出してくれる代わりに…」

『時が来たら私と共に、死んでもらうことを約束した』

「…え…」

約束の内容にナズナは絶句した。まるで意味が分からない。
 彼を共に死ぬことで何があるというのか。ナズナの混乱を表すように、空間の色がぐちゃぐちゃな色に彩られる。
混乱する彼女を気遣うようにユーフェイが言った。

『…この話の続きは、また別の機会にしておくか?』

「いいえ」

ここまで来たのなら、もう後には引けない。彼女の従兄なら真実まで突き進むだろう。何より、ナズナ自身も知りたい。
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