4ー1

文字数 1,009文字

 記憶の欠片が見せてくれた映像の通り、古城のような巨大な灯台がナズナ達の前にそびえ立っている。
海がすぐ近くにあるので、唸り声のような海風と荒々しい波の音が聞こえてきた。さらにようく耳を傾けてみると、自然の音に混じってやはり女性の歌声らしき音も聴こえてくる。
 地上から天辺まで結構な高さがあるのだが、その歌声は灯台の天辺から聞こえてくるようだ。歌声を聴いてソルーシュは俄然やる気が出てきたようで物凄くわくわくした少年の表情になっている。
その隣ではヴィルヘルムが借りた馬達を帰すために鐙についている青い宝玉に手を触れて教わった呪文を唱えていた。

「“グランツ”」

呪文を唱えた瞬間、二頭の馬はあっという間に姿を消した。
今頃ノイシュテルン王国のソルーシュが贔屓にしているあの酒場の裏手にある馬小屋でのんびりしているだろう。あの二頭の馬を帰したことによりこれからは必然的に徒歩での移動となってしまうが、ここに置いて盗賊等に盗まれるよりはましだろう。それより何より、この灯台の天辺に行くまでどのくらいかかるか分からない。
 改めてナズナが見上げると、一番天辺付近は雲で隠れてしまっている。まだ十分とは言えないが、ここに着くまでに体力の基礎を作っておいて本当によかったと思う。もしも体力づくりをせずにここを登っていたら、ソルーシュ達に余計な荷物を増やしていたかもしれない。短剣とカードを握り締めて、ナズナはソルーシュ達と共に灯台内へと足を踏み入れた。

 厚い石の壁のおかげで海風等の自然の音はほぼ遮断されたが、女性の歌声が余計に響くようになった。ソルーシュが用意してくれた松明のおかげで真っ暗とは言い難いが、薄暗いことに変わりはない。石の壁に反響する女性の歌声のおかげで不気味さが増した気がする。
灯りが届く範囲内でソルーシュが内部を観察する。この灯台の内部もやはり城のような構造だ。これからはここを灯台と呼ぶのではなく、古城と呼んだ方が正しいかもしれない。
 おまけに人の管理の手が離れて長いせいか魔物や不死者が住みつき、それらの気配が蠢いている。ソルーシュは真っ先にナズナの身を案じたが、従兄であるヴィルヘルムはここが彼女にとっていい訓練場になりそうだと斜め上のことを考えている。
当のナズナはこの薄暗さがリュウシンと初めて会ったあの部屋の薄暗さに似ているので何だか落ち着かないし、多少武芸をかじった身に感じる魔物達の気配に少々怯えていた。
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