13-9
文字数 1,054文字
くすくすと愉快そうに笑いながらホムラはナズナの身体の向きを変え、自分自身の方へと向けさせる。
依然としてホムラの腕に囚われたままだったので、ナズナは彼の胸に両手を置いて距離を取ろうとした。だが余計に腕の力が強くなっただけだった。
ナズナの抵抗を軽くあしらいながら、竜人族の王は彼女の紅い瞳を見下ろす。
「彼らの助けも無しにここから飛び下りようなんて、怪我だけでは済まないよ」
「……」
ナズナは抵抗を止めないまま、何も返さずに視線を逸らす。ばつが悪いのか、小さく両肩を竦めた。
まさか昼間のこの時間に部屋を訪れるとは思っていなかった。大体この時間帯は、あの玉座の間にて忠臣達と政務を行っているはずなのだが。
「今日の分は終わらせたよ。早くナズナに会いたくてね」
両頬をほんのり赤く染め、穏やかに微笑みながら竜人族の王はナズナを抱え寝台に座らせた。
ここ最近、賓客と言うよりもっと違う扱い方になってきているような気がする。
この国に暮らす人間に対する扱い方でもない。ナズナ自身、狭い世界と付き合いの中で生きてきたので、どういう感じなのかうまく説明出来ないが。
彼女の中にいる水妖族の王と大地の精霊の娘は、すでにこの竜人族の少年王が自分の主に対してどういう想いを抱いて接しているのか見抜いていた。
彼はナズナに恋をしている。
微笑ましいものではあるが、ユーフェイにとってそれは面白くない。
何故なら彼女は自分の花嫁であるのだから。先程のように花嫁の身体に軽々しく触れるのも、彼にとって許し難いものだった。
ナズナの首にあの忌々しい首輪がついてなかったら、すぐにでも表に出て彼を八つ裂きにしてやるのに。
激昂する水妖族の神を余所に、メルセデスは何故ホムラが今まで会ったこともない小さな主に恋をしているのか分からなかった。もし初対面なら、数日過ごしただけでそんな想いを抱かないと思うのだが。
『…いいや、大地の精霊よ。汝には分かるはずだ』
『え?』
『汝はあの魔界の王から、記憶の欠片を預けられたろう』
水妖族の神の言葉にメルセデスがかつてのことを思い返す。
初めてナズナと会った時、メルセデスも彼女とは初対面だった。だが、何故だか分からないが彼女の姿を見た時、すぐに欠片の本来の持ち主だと認識出来た。
その時、預かっていた記憶の欠片が熱くなり、メルセデスの感情が何故か高揚し、自身の魔力の制御が利かなくなった。
あの熱さは、欠片がまるで本来の持ち主に再会出来て喜んでいるようにも思える。
そうして意識を失い、再び取り戻した時は神威の腕の中だった。
依然としてホムラの腕に囚われたままだったので、ナズナは彼の胸に両手を置いて距離を取ろうとした。だが余計に腕の力が強くなっただけだった。
ナズナの抵抗を軽くあしらいながら、竜人族の王は彼女の紅い瞳を見下ろす。
「彼らの助けも無しにここから飛び下りようなんて、怪我だけでは済まないよ」
「……」
ナズナは抵抗を止めないまま、何も返さずに視線を逸らす。ばつが悪いのか、小さく両肩を竦めた。
まさか昼間のこの時間に部屋を訪れるとは思っていなかった。大体この時間帯は、あの玉座の間にて忠臣達と政務を行っているはずなのだが。
「今日の分は終わらせたよ。早くナズナに会いたくてね」
両頬をほんのり赤く染め、穏やかに微笑みながら竜人族の王はナズナを抱え寝台に座らせた。
ここ最近、賓客と言うよりもっと違う扱い方になってきているような気がする。
この国に暮らす人間に対する扱い方でもない。ナズナ自身、狭い世界と付き合いの中で生きてきたので、どういう感じなのかうまく説明出来ないが。
彼女の中にいる水妖族の王と大地の精霊の娘は、すでにこの竜人族の少年王が自分の主に対してどういう想いを抱いて接しているのか見抜いていた。
彼はナズナに恋をしている。
微笑ましいものではあるが、ユーフェイにとってそれは面白くない。
何故なら彼女は自分の花嫁であるのだから。先程のように花嫁の身体に軽々しく触れるのも、彼にとって許し難いものだった。
ナズナの首にあの忌々しい首輪がついてなかったら、すぐにでも表に出て彼を八つ裂きにしてやるのに。
激昂する水妖族の神を余所に、メルセデスは何故ホムラが今まで会ったこともない小さな主に恋をしているのか分からなかった。もし初対面なら、数日過ごしただけでそんな想いを抱かないと思うのだが。
『…いいや、大地の精霊よ。汝には分かるはずだ』
『え?』
『汝はあの魔界の王から、記憶の欠片を預けられたろう』
水妖族の神の言葉にメルセデスがかつてのことを思い返す。
初めてナズナと会った時、メルセデスも彼女とは初対面だった。だが、何故だか分からないが彼女の姿を見た時、すぐに欠片の本来の持ち主だと認識出来た。
その時、預かっていた記憶の欠片が熱くなり、メルセデスの感情が何故か高揚し、自身の魔力の制御が利かなくなった。
あの熱さは、欠片がまるで本来の持ち主に再会出来て喜んでいるようにも思える。
そうして意識を失い、再び取り戻した時は神威の腕の中だった。