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文字数 1,055文字

それでこのコウヅキ国に飛ばされてしまったのだろう。
 路地の隙間からは、ナズナの知る騎士の少女パウラのような人間に近い姿の竜人族の者や完全な竜の姿をした者、そしてエリゴスの部下のような姿をした者達が悠々と歩いているのが見えた。
他の種族は人間くらいで、どの者達も竜人族に付き従っている形だ。老若男女問わず、人間の首には皮や金属で出来た首輪がつけられている。
それだけで人間という種族がこの国でどんな地位にあるのか容易に想像がついた。
 首輪のついていないナズナが一人で歩いていれば不審に思われるかもしれない。
それだけで済めばいいが、最悪の場合ナズナも彼らと同じようにされてしまう可能性がある。
如何せんこの国を知っている者が誰一人いない。迂闊に動くことは出来なかった。

 せめて様子を知ろうとナズナが神威に同調し、彼の目を借りる。
白い鳥の姿になった神威は竜人族の街を飛び回った。

 神威の目を通してみる光景はまさに異国といった風情だった。
中央大陸エドニスやナズナの故郷がある北西大陸ブリューテでは見ない様式の建物が並んでいる。エドニスやブリューテの建物の窓は基本的に木や金属で出来た窓枠で、シンプルなものだがこちらの窓は黒い土壁に映えるように赤の漆が塗られており、ちょっとした装飾が施されている。
 自身の取り戻した記憶の中にある水妖族の建物に近いだろうか。水妖族の建物は様式こそ似ているものの、この竜人族の建物の色とは対照的な青と白だった。
自分達が暮らしていた場所に比べて、どこかエキゾチックな雰囲気がする。

 極たまに獣人族の者も紛れ込んでいるが、彼らにはこの国の人間がつけているような首輪をつけておらず、一人で気ままに歩いているようだ。
ここにいる獣人族は人間と違う立場にあるらしい。今までナズナが訪れた場所は、全ての種族が平等の立場にあった。(身分の差はあったが)なのでこのような種族による“区別”は少なからずナズナに衝撃を与えた。

『ナズナ!危ない!』

ユーフェイの警告にナズナの意識が神威の目から離れ、強制的に自分の身体に戻された。
それと同時に武骨な腕が自身の身体を抱きすくめていたことに気付く。
片方の手はナズナが悲鳴を上げないように口元を押さえられていた。

「こいつ…首輪をつけていないな。一体どこから逃げ出したんだ?」

「さあな。普通の人間には感じられない膨大な魔力を感じるから、自力で逃げ出したのかもしれん」

「魔力のある人間か…そりゃ高く売れそうだな」

「だとしたら普通の拘束じゃすぐ逃げられる。魔力封じの拘束をしねぇと」
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