9-2

文字数 1,032文字

「オマエが一緒だとうるさくてしょうがない」

「ていうかリュウシンに聞いてないし!俺はナズナに聞いてるの。
 ブリューテ大陸やノイシュテルン王国の話が聞きたいんだ」

ちっと舌打ちしてリュウシンは煩わしそうにナズナを見る。いまだに彼と目を合わせられないナズナはさっと彼の視線から逃れた。
 と、リュウシンにとっては天の助けと思うくらいのタイミングで金髪の小さい男の子が元気よくスバルの名を呼ぶ。

「スバルー!」

男の子の呼ぶ声に気付いたスバルが答えた。

「お、カインじゃん!何か用?」

「お昼ご飯の時間だから呼びに来たんだよ!」

「もうそんな時間か…了解!すぐ行く!」

スバルの返事を聞いて男の子はナズナ達に小さく会釈して戻って行った。有翼人種の少年は悪戯っぽく片目を瞑り、翼を使って宙へ舞い上がる。

「またね、ナズナ。今度はうるさいリュウシンがいない時に会いに行くよ!」

そう挨拶して、彼はこの村唯一の診療所の方へ飛んで行く。
嵐が去ったと言わんばかりにリュウシンが盛大に溜息を吐いた。彼はナズナに向き直ると、厳しい声音で促す。

「意外と風が冷たい。そろそろ戻るぞ」

彼の言うことにナズナは黙って従った。リュウシンにしては珍しく大股歩きになっている。その様子から、何だか少し苛立っているように見えた。

 宿へ戻ると、ジンフーが旅支度をしていた。
用意のいい元同僚にリュウシンが感心する。さすがあの皇帝に気に入られているだけある。
彼は戻ってきたナズナの前に跪くと、恭しくこれからのことについて説明した。

「シェンジャ様、まだ貴方の身体が本調子でないことは十分に理解しております。しかしながら、我が故郷であるツァンフーは一刻を争う状態。
 多少無理をしてでも、貴方とユーフェイ様には戻って頂かなくてはなりません。そういうのっぴきならない事情なので、今夜辺りにここを発ちます」

 一瞬、先程会った有翼人種の少年のことがナズナの脳裏に浮かんだ。一言くらい挨拶をしたかったが、致し方ないだろう。折角新しい縁が出来たのに少々残念だった。
ジンフーの説明はまだ続く。

「このアルテム村を出たら国境の森を抜けて、各種族の自治領に入ります。
 そして移動民族トリアの集落へ向かい、そこから船で東大陸に渡ります」

「…分かりました」

ナズナの素直な答えに満足気に頷くと、ジンフーは思い出したかのようにあ、と小さく呟いた。元同僚の呟きを耳聡く拾ったリュウシンが尋ねる。

「どうした?」

「そういえばシェンジャ様の旅装束の用意を忘れていました」
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