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文字数 1,088文字

 ナズナの父であるジークなら何となく分かってはいそうなのだが、パウラの直属の上司はモニカ将軍だ。
ソルーシュはあまり関わったことがないので、モニカ将軍がどのような人柄なのかは知らない。噂によれば、穏やかで人望のあるたおやかな女妖精らしいが。
 どちらにせよ、ヴィルヘルムがパウラを送りがてらノイシュテルンへ戻ることについて異論はない。
ソルーシュ、ジェラルドが頷くとヴィルヘルムは表情を引き締めた。

「じゃあ二人とも、気を付けて。ナズナを頼むよ」

「ああ、ヴィルもな。パウラを守ってやれよ」

ソルーシュの言葉にパウラが反応し、思わずヴィルヘルムの方を見る。
彼は表情を変えることなく即答した。

「何を言ってるんだい、ソル。そんなの当たり前じゃないか」

 何を今更と言わんばかりのヴィルヘルムに、パウラが顔を赤くする。予想外過ぎた。
てっきり、パウラも騎士だから守る必要はないと言い切られるのではないかと思っていた。
おそらくヴィルヘルムのことだからあまり深く考えていないと思うものの、パウラにとってはかなり嬉しい言葉だった。
道中二人きりになるのだから、ある意味絶好の機会である。悪いとは思いながらも、パウラはここにいない貴族令嬢に心の中で感謝した。

 ヴィルヘルムとパウラは再びレガシリアの街に通じる魔法陣に向かい、ソルーシュとジェラルドは東大陸へ向かう船へと乗り込んだ。
船は出航し、帆を広げて海上を進んで行く。幼馴染の貴族令嬢を想いながら、ソルーシュは青空を仰ぎ見た。



 王の私室へと導かれたナズナは、所在無げに部屋の隅に立っていた。
竜人族の王ホムラは小さくなっているナズナを気にすることなく、自らの手で茶を淹れて寛いでいる。普通、茶を淹れる役目は使用人のはずなのだが、その使用人の姿がない。
部屋の外にでも控えているのだろうかと考えていると、当のホムラが気さくに茶を勧めてきた。

「今朝摘んできた茶葉だよ。君もどう?」

「いえ…結構です」

「そう?」

残念そうに肩を竦め、茶を啜る。この国の王はナズナを奴隷として買ったはずだが、何故こんなにも気さくに接してくるのだろう。
 ノイシュテルンには奴隷という身分はなかったが、文献で見た奴隷に対する扱いはとてもひどいものだったと読んだことがある。
思い返してみれば、最初裏通りの隙間から見た彼らは、別に虐げられているようには見えなかった。中にはそういう扱いを受けている者もいるかもしれないが、基本的にはもう少し穏やかな関係に見える。まるで動物を飼っているかのような、そういった雰囲気を感じた。
 おそらく竜人族の者にとって、人間は使える愛玩動物みたいなものなのだろう。
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