11-9

文字数 1,035文字

「どうぞ」

「ありがとう」

ナズナがカードを受け取った刹那、彼女が召喚していないにも関わらず、神威が美しい両翼を広げて現れた。

『ナズナ…!』

「神威…」

主の無事を確かめ、神威は安堵した。そして大地の精霊の娘に向き直ると、自身の代わりにこの小さな主を守ってくれた礼を述べる。

『メルセデス、私の代わりにナズナを守って下さってありがとうございます』

想い人の言葉にメルセデスの心が舞い上がり、頬が美しいバラ色に染まった。

『そ、そんな…!ナズナ様は私達の主なのですから当然ですわ!』

 こうしてついにナズナの手元に全てのカードが戻った。神威のカードが戻ってきたことにより、亡き母の形見である短剣も心なしか嬉しそうに見える。
とりあえず、この場に全員召喚してしまってはナズナの身体がもたないのでエリゴスを除いた三人が一旦彼女の中へと還る。
魔界の王は水妖族の青年二人に向き直った。

『…申し訳ないが、我らが主を少し休ませてやれ』

 下手に出ているような物言いだが、拒否することを許さないものを含んでいた。どちらにしても休息は必要だったのでジンフーは手頃な椅子を引き寄せて座り、リュウシンは無言でその場に胡坐を掻いた。
ナズナも本棚に背を預けて座る。エリゴスは主に近づき、その小さな手に先程取り出した記憶の欠片を手渡す。
欠片を受け取ったナズナは、さっそく自身の懐からペンダントを取り出し、それに近づける。欠片が引き合い、一つになった。完全な球の形になるまで、後少し。
 欠片を握り締め、ナズナは目を閉じ念じる。
やがてナズナの意識は吸い込まれるように闇の中へと落ちて行った。



「ここは…」

 ナズナはポーラル=シュテルンの港町に立っていた。
彼女の隣にはエリゴス、メルセデス、神威、そしてユーフェイが並んでいる。
ポーラル=シュテルンの町並みと活気は今とそう変わらないように見えた。
ナズナ達の目の前に、幼い頃のナズナが母に手を引かれてどこかへ向かっていく後姿が見えた。

『…ついて行くぞ』

 魔界の王が促し、幼いナズナ達の後について行く。
ついて行った先は町から少し離れた場所で、そこには青い屋根で白壁の屋敷がぽつんと建っていた。
白い大きな門につけられている表札には“リヒト孤児院”と書かれている。
それに反応したのは神威だった。

『ここは…ヒスイが働いていた孤児院ですね…』

彼も元主であるヒスイと共に、ここで手伝いをしていたことがある。懐かしそうに目を細め、郷愁に浸る。彼女が亡くなってからは全く行かなくなってしまった。
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