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文字数 1,015文字

 ナズナ達を出迎えるように、数人の子供達が孤児院から元気よく飛び出してくる。
その中には、幼い従兄ヴィルヘルムの姿もあった。

「ヒスイ叔母上、ナズナ!」

「こんにちは、ヴィル。今日もお手伝いに来てくれたの?」

「はい!これから皆で夕食の買い出しに行くんです」

「そう…気を付けてね。ところでこの前新しく入った子は…」

叔母の言葉にヴィルヘルムがああ、と呟いて答えた。

「ソルーシュなら、まだ部屋にいるよ。
 誘ってはみたのですが、まだ町が怖いみたい」

 幼いヴィルヘルムの口から出たよく知る名前に、ナズナはこれがいつの記憶なのかを何となく察した。この記憶はソルーシュとの初めての出会いだろう。
ヴィルヘルムと別れ、ヒスイは孤児院の院長の元へ向かう。
幼いナズナはというと、母の元から離れ孤児院内を危なっかしい足取りでうろうろ探検していた。
曲がり角で誰かとぶつかり、盛大に尻もちをつく。

「いってぇ…」

ぶつかった人物を見て、ナズナの目が丸くなる。
 幼いナズナがぶつかった相手は幼い頃のソルーシュだった。この頃の彼は、ファリド族の証でもある刺青をしていない。
ぶつかった相手が孤児院にいる子供でないと気づいたのか、幼いソルーシュの目が鋭くなる。

「…誰だオマエ?」

声に幼いナズナへの不信感と敵意が現れている。それに気にすることなく、幼いナズナは貴族の礼を取りながら名乗った。

「私はナズナ=フォン=ビスマルク。貴方がソルーシュ?」

「…そうだけど」

貴族の礼と彼女の名前を聞いて、幼いソルーシュの顔つきがさらに険しくなった。幼いナズナは気づいていないが、今のナズナは彼の表情の変化に気づく。ただ、その理由については分からない。
 この時点でナズナとソルーシュは全くの初対面と言っていいはずだ。
初対面で、それもあの短いやり取りで敵意を抱かれるようなことは何もしていない。
幼いソルーシュはじろじろと無遠慮にナズナを観察しつつ舌打ちする。

「オマエ、貴族の娘だな?」

「そうだよ!すごいね、何で分かったの?」

無邪気なナズナの返事にソルーシュが苛立ち、睨み付けた。

「その無駄に長ったらしい名前は貴族か王族しか当てはまらねぇんだよ」

「そうなんだ!物知りなんだねぇ」

 一瞬ソルーシュは拍子抜けしたように目を丸くしたが、すぐにまた険しいものに戻った。
ここまでの流れで神威が何となくソルーシュ少年の気持ちを察し、主に伝える。

『…幼い頃の彼は、どうやら貴族に何か思うところがあるのでしょうね』
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