9-14

文字数 1,032文字

双剣を下ろし、一旦構えることを止めた。
戦うことを止めたユーフェイに内心安堵しながら、メルセデスは再度彼の説得を試みる。

『…ユーフェイシンジュン様、一旦停戦して話し合いましょう。
 私は貴方と争うつもり等毛頭ないのですから』

 ユーフェイに歩み寄ろうとするメルセデスの手首を咄嗟にストラが掴んだ。
油断しない方がいいと彼の左目が訴えている。メルセデスも同じ考えではあったが、まずは自分の方からユーフェイを信じなければと思い直した。
彼女はストラの耳に届くくらいの小声で囁く。

『私は大丈夫ですわ』

そうはっきり言われてはストラも手を離すしかない。
 しかし彼は気を抜かずに水妖族の神から目を離さずにいた。少しでも不審な動きをしたら、すぐにでも動けるようにと。
メルセデスがついにユーフェイの間合いに入った。彼は双剣をその手に握ったままであったが、動く気配はなく、ただ大地の精霊の娘が近寄るのを眺めていた。

 彼は本当に話し合いに応じるつもりでいるのだろうか。
ストラはユーフェイのことを、エリゴスとのやりとりでしか知らない。
あのやり取りで彼が油断ならない存在だと認識している程度だ。
ストラもそれなりに長い年月を生きてきたので、観察眼に自信はある。
花嫁であるナズナの心を自身に向けておくために必死な彼が、素直に応じるものだろうか。

 嫌な予感がして、ストラはメルセデスを呼び止めようとしたところでユーフェイが動く。
水妖族の神の双剣が一閃し、大地の精霊の娘の身体がゆっくりと崩れ落ちた。
娘の身体が崩れ落ちた様を彼は無表情で見下ろしていた。

『め、メルセデスさん!!』

 やはり罠だったか。
ぎり、と奥歯を噛み、ストラがメルセデスの華奢な身体を抱き起す。
 彼女は精霊なので斬られても人間のように傷が残ることはない。現に今さっきユーフェイにつけられた傷は徐々に修復されている。
そう傷が大きくないところを見るに、メルセデスが事前に彼の殺気に気付いて咄嗟に避けたのだろう。
彼女が動いていなければ、あの一閃でこの世界から存在を消されていた。

 最早交渉の余地は無い。先程潜められていたユーフェイからの殺気が容赦なく突き刺さってくる。
ここから出るには、隙を見て転移魔法を唱えるか暴走しつつある神を大人しくさせるかの二つしかなさそうだ。
ストラはあまり戦闘が得意ではないが、上司が自分を指名したからには何かあるのかもしれない。
片腕でメルセデスの身体を抱き上げ、ストラはユーフェイに向かって空いている方の手をかざした。
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