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文字数 1,033文字

 ソルーシュがナズナを助けたいという気持ちは確固たるものだ。
彼女のためなら、自分の命すら惜しくない。
その考えに至った理由を改めて考えてみると、やはり彼女への罪悪感からなのだろうか。
多分そうなのかもしれない。彼女を助けることで、過去の罪を償ったつもりになる。いわゆるソルーシュの自己満足だ。
記憶を取り戻した彼女に再会するのが怖いが、それでもやはり助けたいという気持ちが勝る。
 ついにソルーシュは覚悟を決めた。
彼の紫の瞳に決意の炎が灯る。立ち上がり、しっかりとした足取りで部屋へと戻っていく。
部屋に戻る途中で、幼馴染の騎士の青年が廊下に立っていることに気付いた。

「ヴィル…」

 ソルーシュの顔が強張る。一体この幼馴染はいつからそこにいたのか。
ヴィルヘルムは俯いているため、彼が今どんな顔をしているのか分からない。
もしかして今さっきそこに来たのだろうかと思い、軽く挨拶をして通り過ぎようとしたところで冷たい声が追いかけてきた。

「君のせいだったんだね」

ソルーシュの足が止まり、肩がびくりとする。背中に氷塊を押し付けられたような気がした。

「…聞いていたのか…」

今更隠すつもりもないが、何を言えばいいのか迷っていた。
 迷っている間に俯いていたヴィルヘルムの顔が上げられる。まるで能面のように無表情だった。顔が整っている分、余計に怖い。
その表情に気圧されるかのようにソルーシュは必死で言葉を探し、声を絞り出した。

「黙っていて悪かった」

「ナズナに優しくしていたのは、記憶を取り戻した時の免罪符みたいなもの?」

ソルーシュの謝罪を真っ向から無視してヴィルヘルムが問う。
幼馴染の騎士の質問にソルーシュが固まった。半分当たっているため、何も反論出来ない。
だけど全てがそういう理由で彼女を気遣っていた訳ではない。
同じ過ちを繰り返さないため、そして彼女を自分なりに守る手段でもあった。

「…半分はそうだった。だけど、半分は違う。
 あれがオレなりの守り方なんだよ」

ソルーシュの答えにヴィルヘルムの目がさらに冷たくなる。

「ふーん…。でも、今頃ナズナも真実を知っている頃じゃない?
 もう君にあの子を守る資格なんてないよ」

彼の言う通りだ。真実を知ったら、ナズナはソルーシュを拒絶するかもしれない。
それでも構わなかった。彼女に拒絶されようが、ソルーシュは覚悟を決めた。
これからも彼女を助け、そして守っていく覚悟を。

「資格なんて関係ねぇよ。ナズナ姫がオレを必要としなくなっても、オレが勝手に守るって決めたんだ」
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