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文字数 1,036文字

思いも寄らない話題にその場にいた全員が固まった。
どうしてそのような話が出てきたのだろうか。今はそういう場面ではないのだが、その辺は流石ヴィルヘルムというべきだろう。
 この話題に興味があるのか、睨み合いをしていたユーフェイとジェラルド、そしてパウラが食い付き、ナズナに注目する。
水妖族の青年二人はこの話題が出た時点ですでに傍観を決め込んでいた。従兄の意図が分からず、ナズナはきょとんとした表情でユーフェイの顔を見上げる。

 彼の花嫁になるということは儀礼的なものであり、恋愛的なそれではない。
嫌も何も、ナズナの意志は最初から無いに等しい。言うなれば政略結婚に近い形だろうか。
ナズナの答えを不安そうに待つ水妖族の神を見てナズナは思う。

 彼が神になったきっかけを聞き、そしてその枷から解放されるためには自分の魔力と命を必要としている。時間を歪められ、ずっと長い間苦悩しながら生きてきた。
そんな彼を、ナズナなりに助けてやりたい。
だから多分、彼の花嫁になることは嫌ではないのかもしれないと思い始めていた。死ぬのは少し怖いが。

「嫌ではない…と思います」

ナズナの答えにジェラルドの眉間に皺が寄り、ソルーシュが衝撃を受けたようだった。
水妖族の神は花嫁の返答にかなり驚き、目を丸くしている。表面上は平静さを装っていたが、内心は彼女に嫌われていなかったことに安堵する。
そして勝ち誇るような笑みを獣人族の貴公子に向けた。我ながら大人げないと感じてはいるものの、可能性の芽は少しでも潰しておきたい。

『そういう訳だ。お引き取り願おうか』

衝撃から回復したソルーシュが探るような目つきでナズナを見る。
本当にナズナの意志による答えなのかどうかを疑っているようだ。だが、彼女の紅い瞳は操られているようでもなく、ただ真っ直ぐにユーフェイを見ていた。

 職業柄様々な人種を見てきた彼には、ナズナのユーフェイに対する恋情を感じ取れなかった。故に彼に対する好意はあくまでも友情に少し毛が生えた程度ぐらいのものである。
また、そのひたむきな視線から本気でユーフェイと、そして水妖族の国のためにその身を捧げようとしている覚悟も伝わってきた。
最早彼女の意志を曲げることは不可能なのだろうか。
パウラの言う通り、ナズナが彼らのために犠牲になる必要はないはずだし、ソルーシュとしても行って欲しくない。
 そう考えてソルーシュは首を振る。自分にそんなことを考える資格はない。
ナズナがそう決めたのなら、彼女の意志を尊重すべきではないのか。
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