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文字数 1,013文字

そのせいで口を開くことがかなり難しい。武人であり、それなりの場数を踏んできたジェラルドですらこうなのだから、一般人ではこれだけでは済まないだろう。
共にいるナズナは彼の放つ威圧感に全く反応していない。一応彼女がユーフェイの契約主だからだろうか。
 ジェラルドの様子がおかしいことに気が付いたナズナは、きょとんと首を傾げた。

「閣下?如何致しました?」

どこか身体の調子でも良くないのだろうかとナズナがジェラルドの額辺りに手を伸ばすと、その手はユーフェイの手に捕らえられた。

『…おそらく、このやんごとなきご令息は我の放つ威圧感に呑まれておるのだろう。
 一言礼を述べたいと思って出てきたのだが…申し訳ないことをしてしまった。我が花嫁、我は一旦汝の中へ還ろう。何かあれば、我が名を呼ぶがいい』

では、とユーフェイはジェラルドに向かって一礼し、ナズナの中へと戻って行った。彼女の中へ戻る時、ユーフェイは先程の人好きするような笑みを消し、ジェラルドを氷のような冷たい瞳で射竦めた。丁度ナズナに背を向けた格好で消えて行ったため、彼女からはそれが見えない。
 ユーフェイの視線から、彼がジェラルドを密かに敵視していることを感じた。
おそらく彼は彼女の中からずっと見ていたのだろう。自分の花嫁であるナズナとジェラルドの仲睦まじい(?)様子を。
所詮水妖族の神も一人の男かとジェラルドは心の中で呆れた。

 ともかく、目的のものが見つかったのだから、これ以上宝物庫に長居は無用である。

「一旦ここから出るぞ」

素っ気なく言うジェラルドにナズナが頷く。早々に外へ出て、再び鍵を閉める。
早く元の部屋へ戻った方がよいかと思われたが、またナズナがジェラルドの姉妹達に邪見にされるような光景を見たくないので少々躊躇った。
折角こちら側にいるので、ミッターマイヤー家自慢の庭園へ寄って行こうとジェラルドが提案する。

「ナズナ、よければこれからミッターマイヤー家自慢の庭園に案内するが」

 残してきた従兄や幼馴染がどうしているかも気になるが、折角のお誘いだ。断っては失礼だろう。それにこの短時間でこのジェラルドという青年がとても好きになったので、ナズナとしてももっと仲良くなりたいと考えていた。
ジェラルドの魅力的なお誘いにナズナは快く了承する。

「是非見たいです!」

ナズナの快諾にジェラルドの耳と尻尾がぴんと立ち、そして興奮を現すかのように左右に揺れる。本人の表情は仏頂面のままであったが。
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