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文字数 1,030文字

 今が好機と判断したジンフーはリュウシンに目配せして合図を送る。
彼の合図に気付いたリュウシンは小さく頷き、ナズナに気を取られているジェラルドを力任せに押し出した。不意を突かれたジェラルドはよろけてしまい、リュウシンがすり抜けて行くことを許してしまった。狙いは言われずとも分かっている。
ジンフーもすでに動いており、半透明のユーフェイをすり抜けてナズナの前に立っていた。

 彼女の意識をどうにかして取り戻そうと、必死にユーフェイが花嫁の名前を呼ぶ。
いつかと同じように花嫁の身体を借りるべきか迷うが、今はジェラルドがいる。下手をすれば彼を巻き込んでしまうかもしれない。
自分達の事情に何の関係もない彼を巻き込んで傷つけることはユーフェイ自身も、そして契約者であるナズナも本意ではないのだ。
ユーフェイが葛藤している間にも、リュウシンが膝をついているナズナの前に立っている。最早彼女の意識はここにない。記憶の海を漂っている頃だろう。
崩れ落ちる彼女の額に、リュウシンが元同僚から受け取った札を貼り付ける。
その札の効力もあってか、半透明のユーフェイの姿がついに消えてしまった。

 リュウシンが意識を失ったナズナの身体を丁重に抱え上げ、ジンフーが満足げに一息吐いてジェラルドの方を振り返る。そして勝ち誇った笑みを浮かべて、恭しく挨拶した。

「それでは、これにてお暇させて頂きます。
 ごきげんよう、獣人族の貴公子殿」

「ま、待て!」

 追い縋ろうとするジェラルドをリュウシンの銃弾が阻む。
彼らは高く跳躍すると、天井のステンドグラスを割って外へと飛び出した。
慌ててジェラルドも外へ出て今更集まってきたミッターマイヤー家お抱えの私兵に、彼らを追い掛けるよう指示を出す。
 そして自らも追い掛けようとしたところで、ようやくナズナの従兄であるヴィルヘルムと幼馴染の商人であるソルーシュが追い付いてきた。
彼らの足元が少々ふらついているところを見ると、ジェラルドの姉妹達に相当飲まされていたことが窺える。
普段ならヴィルヘルム達に嫌味の一つを零していただろうが、ジェラルドもナズナを守り切れず目の前で攫われたこともあってか何も咎めなかった。否、彼も咎める立場ではないと自覚している。

「すまん、私がついていながら…」

「閣下のせいではありません」

 即座に否定し、苦々しい表情でソルーシュが割れたステンドグラスを睨み付ける。責めるべきは自分自身だと、彼の表情が語っていた。やはり彼女の側を離れるべきではなかった。
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