これもいつかの……。
文字数 468文字
岬さんは口ごもる。何が言いたいか分かったようにも見えるし、続く言葉を待っているようにも見える。
いや、あれはもしかすると向坂じゃなくて、僕の気持ちを伝えようとしていたのかもしれない。
どっちにせよ、岬さんからは、はっきりした答えはもらえなかった。
はっと息を呑んだのは、その声の響きが、図書館で聞いたのと同じだったからだ。あの時に頭の中で聞いた言葉が、声となって蘇る。
ヨウコを見下ろしてみたが、こっちは何も言わない。返事は僕次第ということなのだろう。
岬さんは目を瞬かせた。夕日が、山の端にかかっている。やがて、それが沈む最後の一瞬だけ放たれる光の中に、清々しい笑顔が見えた。
どんな顔して言っているのか、もう薄暗くて分からない。ただ、その言葉の響きは、弾んでいるようにも聞き取れた。
勢いに乗り、思い切って口を開いた。それなのに、先が言えなかった。