傍目から見れば異様な「会話」

文字数 407文字

 冷や冷やしながら、僕は小柄なヨウコを膝の上に置いて座り、自分で飯を食うふりをしなくてはならなかった。僕は当然、箸を持っているが、箸を空中浮遊させるわけにはいかないヨウコは、犬食いをするしかなかった……いや、狐食いというべきか。
いらんことすんなって、アタシがいつ? いつした?
しょっちゅうじゃねえか。
 こんな姿勢で、男子高校生と中学生女子がひそひそ話しながら丼メシを代わりばんこにかっ食らう光景は、想像しただけでもかなり異様だ。しかも、ヨウコの姿は見えないのだから、僕がひとりで背中を丸めてなにやらぶつくさ言いながら物を食っているようにしか見えないだろう。
……。
……。
 ありがたいことに、夜間シフト組は短い時間に夕食を済ませるのに精一杯で、僕の声も姿も気にしているような余裕はないようだった。
覚えがないなあ。
そうだったろ、出会ったときから。
ん~、だってあれは。
 本当に、余計なことをする娘だったのだ。こいつは……。
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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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