世界の動きの微かな余波

文字数 530文字

たいしたものはないけど。

 椎茸の味噌汁にタケノコの煮ものと焼きサバとというよく分からない取り合わせの夕食には、故郷が感じられた。粗食で済ませるつもりが、突然の客に慌てて、ありあわせの動物性蛋白質食品を出したといったところだろう。

 

いえ……お気遣いありがとうございます。
……。
……。
 その傍で、僕は黙々と箸を動かした。今日のことを考えると、気まずくて何も言えなかったのだ。親父も若い女の子に慣れていないのか、照れ臭そうに黙っていた。
……そ、そうだ、学校の方は?
 オフクロだけが学校のことをうるさく訪ねてきたが、僕も岬さんも「はい」と「いいえ」と「わかりません」しか答えなかった。
(そういえば、あいつは……?)
 食い意地が張っていてよく喋るヨウコはというと、どうしたわけか夕食の場に顔を出さなかった。そもそも、実家の食卓にはもう、座らせる椅子がない。

(バイト先のまかないなら、なあ……。みんなゴタゴタしてるし、目立たないし)

(膝の上で犬食い……じゃない、狐食いさせるわけにもいかんしな)


 だから、話題の尽きたオフクロが黙り込んでしまうと、あとは何となく点けたテレビから夕方のニュースが流れるだけだった。
反政府側の攻撃を受けた政府軍への支援が表明され、同盟国に……。
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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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