命の絶叫

文字数 418文字

鳥に、なって、飛んで、いきたい。

 足を半歩ずつ引きずりながら、僕は暗い色をした軍の車両が走り抜ける歩道を這うようにして、一言、一言つぶやいた。辺りはじんわりとした夕日の光に包まれて、今にも薄い夜闇が滲んでくるように思われたからだ。

 絶望で、意識をなくすことがないように……。

 それでも、日は暮れていくのに、煙はかなりはっきり見えてきた。

(岬さんは、まだいるだろうか? それとも、もう病院だろうか? それとも……)

 今まで避けてきた、最悪の予想が頭をよぎった。

 もう、死んでいる?

そんな、ことが、あるもんかああああああ!
 全身の力を振り絞って叫んだ。そうしないと、さっき考えたことが現実になるような気がしてならなかった。
(もう、こんなことしかできない。でも、このくらいで済むなら……)
 何度でも叫んでやろうと思った。僕は、日が沈むまでは絶対に死なないのだから。


(あと……少し!)
 それでも、僕は煙の根元まではどうしてもたどりつけなかった。
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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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