ヨウコが僕で、僕も僕で

文字数 446文字

 そんなわけで、僕は軍の車両が行き来する昼下がりの国道で、バスに乗っていた。

 動ける一般の自動車なんか限られてるし、バスも時間通りには来ない。それでも僕は、午前中から何とかバスを乗り継いで、少しずつではあるけど学校のある町へと向かっていた。

 何でそんなことができるかというと、首から下げた絵馬のおかげだ。

 そう、狐ネットワーク。

 なぜ僕がそれを持っているのかというと……。

じゃあ、これ預けるね。
 臭いと言いながらも昨日の服を着たヨウコは、僕の姿で絵馬を僕に手渡したものだ。
事情は仲間に話しておいたから、ちゃんと動いてくれるはず。指示通り動けば間違いないって!
別に……いらない、持ってろよ、大事なものなんだから。
持ってって! 最後の1日は一緒にいられないわ、お兄ちゃんは思い残したこと抱えて死ぬわじゃ、目も当てられない。
 単純な話だった。ヨウコが僕の身代わりになって両親の目を引き付けてくれればいいのだ。
いってらっしゃ~い!
 僕は自分自身に見送られるようにして、すんなり自宅を出ることができた。
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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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