ライバルの見た不思議

文字数 398文字

今まで、どうしてたんですか?
 僕は質問を質問で返してはぐらかした。
(告白した相手だろ……? 車まで持ってて……こっちは、散々だったのに)

 走ることはできなくなっても、僕は記念公園めざして足を引きずった。ただでさえそんなに足は速くないのに、歩みはいつもよりも遥かに遅くなった。

 一旦傾いた日は沈むのが早い。どんどん長くのびていく軍の車両の影をただ見つめながら、僕は痛みと悔しさで歯を食いしばって歩いていた。

(情けないとこ見られちゃったな)
 軍の車両が見えなくなって、一般車両用に開放されたと思しき道路に出たのだと分かった。そのとき、数珠つなぎに並んだ車の中から、僕に声をかけたのが向坂だったのだ。
不思議なことがあるもんでね。
 向坂は本当に不可解そうに眉根を寄せた。
学校が休みになったからって、岬に呼び出されたんだ。
(……呼び捨てかよ)
 ちょっとムカッと来たが、事情が知りたい僕は、黙って話を聞いた。
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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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