妙に気になる狐の嫁入り

文字数 478文字

いかんいかんいかん、寝るぞ寝るぞ寝るぞ!
すう……すう……。

 その夜は、眠れなかった。ヨウコが気になって仕方がなかったからだ。

いいか、コイツは狐、コイツは狐、コイツは狐!
ん……う……。

 最初に出会った夜はともかく、ヨウコが妖狐だと分かってからは、僕はしっかり自分の布団で寝ていた。ヨウコはというと、狐だという分を弁えて、すぐそばで丸くなって寝ていた。

 それで、よかったのだ。

そうだ、今度は背筋……いや、腹筋だな。畳に身体すりつけるのは、ちょっと。
むにゃ……。いいよ、お兄ちゃん。
な……。
アタシが畳で……。
……びっくりさせんな。

 ところがその晩に限って、僕は妙にヨウコを女の子として意識していた。遠慮するのを強引に僕の布団で寝かせて、自分はその傍で腹筋背筋腕立て伏せをやって過ごしたのだ。

まだまだ……ふっ! ふっ!
くう……くう……。
こいつ、でも、結婚、できるのか……人間と? たとえば、僕とも? まさか。
ふふ……。

 そんなことが気になったのは、狐の嫁入りの話なんか聞いたせいかもしれない。

 結局、途中で息が苦しくなって気を失い、気が付いたら朝になっていた。

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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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